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第110回 エポックメーキング<10/12>

 買いたいけれど買う勇気がないと書いた矢先に、日米のハイテク株が大幅高となりました。
 たしか昨日の日経金融で、アドバンテストの株価見通しとして、PBR(純資産倍率)で割高だから解散価値の2000円台まで下がる可能性があるという、まるで資産価値以外にハイテク株の下落を食い止める要因がないとでもいうような見解が述べられていましたが、株価が底を打つときはいつもこのようなものでしょう。

 昨日と今日の連騰で、さすがに一方的な下落を予想する人は少なくなりました。しかし、強い上昇が続くと考える人もまだごく少ないはずです。
 上がれば上がったで、反落が心配で、決してばら色の気分なんかではありません。また仮に、まだまだ上がりそうだと考えても、こっぴどくやられた直後だけに、簡単には買いに行けません。それに、大きく上がっている銘柄はまだごく一部で、自分の持ち株は全然上がっていないとぼやく人もいます。
 したがって、平均株価の上昇のわりには、どんよりした気分が市場全般に漂っています。

 まだ、とても駄目だよ。株価が本格上昇するためには、市場ムードがもっとすっきりとしたものになる必要があるという意見があります。しかし、それは無理というものでしょう。
 株価が底打ちするときは、当然ながら、悪材料に満ち満ちています。市場には悲観が満ち満ちています。悲観と絶望のきわみが突然に楽観に変わるためには、よほどの大材料が必要です。
 しかし、経験則からは、好材料の出現によって反転する相場よりも、市場現象として自律的に反転した相場のほうが後々強いことが多いといえます。

 私は、今回の上昇は、このままの強さがいつまで続くかは別にして、中期的には、相当に意味のあるエポックメーキングになる可能性が高いと考えます。
 まず、米国における半導体株の強烈反転は、約3年周期のシリコンサイクルに準じたハイテクの株価サイクルがとりあえずボトムに到達したことを意味するのではないかと思います。
 ただし、ハイテク株については、前回のサイクルがあまりにも巨大に過ぎるので、今度のサイクルは大人しいものになる可能性があります。
 次に、昨日のザラ場安値で銀行株がつけたかどうかはともかく、TOPIXが98年10月と並ぶダブルボトムを形成することは確実になったとすれば、それは、日本の在来産業株がバブル崩壊後の下落相場にピリオッドを打ったことを意味するはずです。
 こちらのほうは、今後の株価波動が大局的にどのようなものになるかは、日本経済がどのようにして活力を回復していくかにかかっていると思われます。

 ハイテクにしろ、在来産業にしろ、現時点ではそのほとんどの銘柄が魅力ある株価位置にあると考えます。総論は「買い」として、では具体的にはどうすればよいか? 正直なところ、まだ迷っています。
 目先はリバウンドと割り切って勢いのあるハイテク主力につくべきか、目先に惑わされず数倍化の可能性のある小型株につくべきか、それとも目先の株価は鈍くても安心感の高い中低位株につくべきか。
 結局、今日のところは大きな行動はできず、ハイテク主力を横目に見ながらTOWA(6315東大)と、安心感でニチメン(8004)を勧めるだけで終わりそうです。

 ま、急ぐ必要はない、上がれば上がるほど安心感の出る局面のはずだから、と思っています。


第109回 いま自分のお金で株が買えるか?<10/10>

 相場はますます混迷の様相を強めています。前に「漂流記」に喩えましたが、まさに我々は大洋の真っただ中で方向感を見失って漂っているような日々を過ごしています。

 企業業績は真っ暗です。経済の先行きになんの明るみも見えません。しかし、株価はおうおうにしてこのようなときにこそ底を打つという経験則があり、実際に90年代の日本株はこのようなとき(鉱工業生産の大幅後退が明らかになったとき)にこそ底を打ちました。そして、それはちょうど3年おきに起こり、今年はその3年目です。
 テロ事件による経済の後退が、中期的にはむしろV字型回復の素地を提供したのではないかという強気意見も出てきました。もし、報復攻撃が過激派の生存基盤に致命傷を与えることができれば、株価は大幅高になるはずです。米国を中心とする世界資本主義が当面まったく安泰であることをあらためて保証されたようなようなものだからです。
 しかし、それにもかかわらず、我々はまるで舵を失ったかのように動きが取れません。
 それはなぜか?
 米国の経済が長期的に伸び悩み、日本ではデフレ現象がますます深刻化し、株価はますます泥沼のようにジリ貧になっていくという、株式投資家にとって最悪のシナリオが、無意識のうちにも我々の投資マインドに覆い被さっているからです。

 米国のイニシャティブに揺るぎがない現在、世界不況が長期化する確率は、実際はものすごく小さいものと考えられます。理性的に考えれば、シリコンサイクルと同様、今が最悪期で、来年のどこかで明るみが見えてくるのでしょう。
 しかし、それが分かっていても、もしや・・・・という強い不安感がよぎります。ちょうど、去年の夏、そろそろサイクルのピークが来る頃と頭では分かっていても、あまりの絶好調にシリコンサイクルは消滅したのではないかという楽観的な気分が多数を占めたのとまったく同じで、今は逆に、今度ばかりは景気の反転はなかなか来ないのではないかという悲観的な気分が重くのしかかかって来るのです。特に、米国の好況があまりにも長く雄大なものであったため、その反動も長いものになるのではないかという素人考えも根強くまといつきます。

 現在の相場に漂う重くよどんだようなムードの根本には、およそ以上のような背景があると私は思います。単なる一時的な下落不安ならば、そのリスクは株価に織り込めます。例えば、全体相場の下落によるリスクが20%あっても、それに勝る魅力がその銘柄に感じられれば、通常は「買い」になります。しかし、相場全体が限りなく下落していくシナリオを想定した場合、銘柄個々の投資魅力は吹き飛んでしまいます。

 いま株を買うためには、最悪シナリオを杞憂として割り切る必要があります。そして、よほどの大金持ちならともかく、普通の人間にはなかなか難しいことだと痛感します。

 私の場合、人並みに住宅ローンをかかえています。金融資産としては、株に相当な比重をさいていますが、銀行預金の他に年金保険の積み立てがあります。
 銀行預金を不時の備えとすれば、株を買うためには年金保険を解約する必要があります。株が暴落するたびに、株に乗り換えたいと思いつつ、保証利回りが高いので積み立てを続けてきたものです。
 今回はもしこのまま株が下がり続けるなら、生命保険会社が利回りを保証するどころの話ではなくなるはずなので、もはや利回りには未練がありません。しかし、正直なところ、これ以上、株に資金をシフトするのが怖いのです。
 これから自分の身に何が起こるか分からないので、換金できる資産を普段より多く持っておく必要がある。もし株にしてしまえばその銘柄に何が起こるか分からず、不安だ。だから、今は株は増やすべきではない・・・・というふうに考えがどんどん後ろ向きになっていきます。

 これを書いている間、日経平均は1万円を小幅に出没するのみ、顧客からの電話は1件もありませんでした。仕方がないと私はつくづくに思います。この漂流の結果は、時の流れがおのずからもたらしてくれるはずです。
 多分、98年のさくら銀行の160円台を買い逃したときのように、なんであのときあれを買わなかったろうと地団太踏むときが来るのでしょうが、私は情けなくも、とりあえず、待つのみの毎日です。


第108回 株の値打ち(その2)<10/4>

 NYダウの9900ドル台回復と半導体株の下げ止まりで、嵐のような下落相場にとりあえず一服感が出たとはいえ、依然自信の持ちにくい相場状況が続いています。
 電話をかけても「買いましょう!」とはっきり言えないので、我々外務員はほぼ全員ただ座って時間をつぶしているだけの毎日です。今日は上がっているので、さすがに期待をこめてボードや端末を見ている人が多いのですが、下がっている日には、あと何年で年金がもらえるかということや、何かいい転職先はないかなどが、冗談半分ながら話題になります。
 私は、今は相場観を二の次にして、株の値打ちとはいったい何かということをしきりに考えています。

 昨日、合同製鉄が最近にない大商いで、4円安の85円で終りました。全体も安かったとはいえ、142万株も売りが出たことに驚いています。(逆にいえば、よくぞそれだけ売りが出て、4円安ですんだものだとも思います)
 日経の商品欄で、合同製鉄が構造用鋼を30%減産(とりあえず年内3ヶ月間)すると報じられたことが多分有力な売り要因になったと思われます。
 会社に問い合わせたところ、構造用鋼は月産5億円規模であり、年内の売上減は2億円未満、かつ仮に減産が継続されても、全売上高に与える影響は3%未満です。神戸鋼など他社と足並みを揃える形での減産であり、損益に与える影響は必ずしもマイナスとはいえません。
いずれにしても大きな問題ではないはずですが、ちょっとした材料がただちに悪材料になり、見切売りにつながるところに現在の相場の特徴があるのでしょう。

 日頃から、株価はちょっとした出来事で大きく揺れ動きます。債券のように満期があるわけでなく、インカム(配当)も決まっているわけではないので、評価(価値観)が気分によって大きく左右されるのはやむをえないと私も思います。
 しかし、問題は市場参加者のうちどのくらいが自分の売り買いする銘柄について、自分の価値観を意識しながら売買しているか? です。別にアナリストめかした株価分析のことを言っているわけではありません。そんなものがいかに無力であるか、ネットバブル崩壊以来、我々はまざまざと感じています。

 例えば、美術品や骨とう品を買う人に2つのタイプがあります。1つは、自分の部屋に飾って眺めて楽しみたいから欲しくなるタイプです。もう1つは、店主に「拾いものですよ。本当なら、・・・・万円くらいしますよ」と言われると矢も盾もなく欲しくなるタイプです。
 仮に買った品が値下がりしても、前者のタイプならもっと値切ればよかったと思うだけで、買ったこと自体を根本から悔やむことは少ないはずです。それに対して、後者のタイプは、もし値下がりすれば、買ったこと自体がいまいましい失敗なのですから、その品を眺めて楽しむ気にはなかなかなれないでしょう。

 私が問題にしたいのは、日本の投資家には、その後者のタイプの比率があまりにも多いことです。少なくとも、日々売買されている株の大半は、そのような仮儒タイプの投資家の間を、株そのものが愛されることなく、まるでババ抜きゲームのように転々としているのです。
 この原因は、まず第一に、以前は日本株の配当利回りが異常に低く、持っているだけでは直接の効用がほとんど実感できなかったということにあります。しかし、それ以上に、日本の証券会社が手数料競争に明け暮れていたということも大きな原因になっていると私は思います。
 随分昔ですが、ある証券会社などは「株を買うな、時を買え」などという、手前味噌で正直なキャッチコピーを堂々と宣伝に使用していました。
 
 もちろん、仮需がいけないというわけではありません。ただし、あまりにもその比率が高ければ、銀座の土地やオランダのチューリップのように、だれも本当には欲しくないような異常高値で売買されたり、逆に一転下落に転じると、下がれば下がるほどますます下値が見えなくなるような市場構造になってしまいます。

 日本の投資家層を充実させるためには、キャピタルゲイン課税の改正ももちろん大切と思いますが、配当課税の軽減・簡略化も本質的にはより大切と考えます。
 株の値打ちについて、投資家はいろいろな角度から実感します。値上がりもさることながら、無償の持ち株増加や配当金によって持っていることの醍醐味を感じる人もいます。なかでも、本来は配当金がもっとも現実的に株の効用を実感できる手段のはずですが、日本ではあまりにもそれが馬鹿にされています。

 日本の在来企業の大半は、もっと抜本的に配当性向を上げるべきであり、それによりだれにも株の値打ちを実感できます。
 一方、成長性に自信のある企業は、子供だましみたいな配当は止め、いっそ無配とすべきです。その企業に投資している投資家は、目先の配当が欲しいから買ったのではなく、あくまで成長に期待して買ったのですから、その期待に応えるべく全資源を活かすべきです。
 配当はそれほど欲しくない、しかし無配株には絶対投資しないという日本的な土壌は、早晩くつがえされるべきだと思います。


第107回 株の値打ち<10/1>

 富士通とNECが1000円を割れ、ソニーと東京エレクが4000円割れとなりました。
 ハイテクは去年前半には異常な高値にありましたが、今はほとんどの銘柄が、この20年間の株価推移の中ではリーズナブルな水準(いわゆる値頃)に落ちてきました。
 例えば、富士通でいえば、82年以降、1000円を下回ったことが前に7回ありますが、バブル崩壊直後の91年末から94年1月までの正味2年間を除いて、いずれも短期的に回復しており、感覚的には1200円〜1500円位が値頃の株です。
 だから、富士通の1000円以下はきっと買い場なのでしょうが、なにもかも信じられなくなってきた現在、それをどう合理的に説明できるか、甚だ難しいところです。

 ハイテクが華々しい頃は、5年後までの1株利益予想を並べたり、ビジネスモデルの価値を何兆円にも見積もったりで、いかにももっともらしく目標株価が設定されていましたが、いまはそんな勇ましいアナリストの見解にはなかなか接することができません。それどころか、会社が減額修正を発表するたびに、追随してレーティングを下げるアナリストが多いことにびっくりします。

 富士通の場合、配当は10円で、1株純資産は600円台ですから、それをもとに1000円が安いということはいえません。その代わり、成長株としてのイメージが市場のコンセンサスとしてあり、そのために1000円以上の値頃感が長年にわたって定着していたものと考えられます。 
 去年はその成長期待に対して2000円以上の評価があったのに対し、現在では半分以下の評価になったわけです。その1000円以上の落差をなおも分析すれば、今期の予想利益が1株あたり50円の黒字から100円強の赤字になったことを差し引くと、来期以降の利益に対して850円弱が評価ダウンになったことになります。
 ここで10年以上先のことはだれにも分からないこととして度外視すると、現在の株価は2000円のときよりも、来期以降の10年間に対し、1年あたり80円以上の1株利益の減額修正を織り込んでいることになります。
 いかに厳しい経済環境に直面しているとはいえ、10年先までの利益水準を根本的に変化させるような悲劇に我々は直面しているのでしょうか?
 世界大恐慌が起こるというなら、話は別です。以上は、あまりにも大雑把な分析ですが、その他の銘柄で見ても、1929年に匹敵するような世界経済の長期縮小を考えないと、説明できないような株価下落が起こっていることは確実だと思います。

 米国のハイテク株で考えると、90年代の収益と株価の成長があまりにも大きかったために、もしも元の黙阿弥になったらどうしようかとぞっとしますが、日本のハイテクの場合、値頃感があるぶん、比較的気が休まります。
 1社1社の運命は多少心配でも、現在の時価総額でいけば、日立が2.6兆円、富士通とNECが1.8兆、1.6兆円、東芝と三菱電機を合わせて2兆円強ですから、約8兆円で日本の巨大電機5社を買えてしまうことになります。売上高は全部で30兆円近くですから、いくらなんでもお買い得と私は思うのですが。


第106回 漂流記<9/27>

 たまたま、いま読んでいる小説が、江戸時代に尾張から江戸に向かう廻船が太平洋に漂流する話です。
 嵐はとりあえずおさまりました。しかし、問題は陸地が見えないことです。幸いにして水と食糧は何週間分かあります。船長は漂流が長い期間にわたるだろうことを言い含めた上で、水と食糧を全員に均等割りにし、一日に使う量は各自の自由とします。
 我々も、ほぼ似たような状況にあるのではないでしょうか。むしろ、我々の場合には、いつになるか分からないにしても、いつかは上昇相場という陸地に向かう望みがあるだけまだしも恵まれているといえるかもしれません。

 今後の相場展開で予想される状況は、次の3つにあらかた集約できるでしょう。
@ 嵐がまた来る。(世界株価再急落)
A 嵐は来ないが、限りなく漂い、陸地は遠ざかる。(弱含み継続)
B しばらく漂うが、陸地が見えてくる。(底入れ。ただし、底入れ後急反発の場合と底入れ後もみ合いが2〜3ヵ月続く場合の両ケースあり)

 このうち、@については、私は開き直って「ありえない」と考えることにしています。思いもしない暴落はいつだってありえます。今みたいにみんなが心配しているときに、自分も一緒になって心配でたまらなくなるくらいなら、そもそも株式投資をやるべきでないと考えます。
 (もっとも、自分自身の直感や独自の情報で、暴落の可能性があると思うなら、それは別の話です。あくまでも、付和雷同の心配に判断を惑わされたくないということです。それからまた、もし万一暴落したらどう対処しようかという大雑把な心づもりは今に限らずつねにある程度必要なことだと思います)

上の@のケースを割り切って度外視すれば、問題はAかBか、すなわち陸地が見えるのがいつかということに絞られます。
 冒頭の漂流の話で言えば、水と食糧(資金)を自分自身の責任でどうやりくりして使っていくかということです。もし信用取引や使う予定のある資金なら、長い漂流を覚悟して怖る怖るしか使えません。しかし、余裕資金でかつ銘柄の値打ちに自信があれば、漂流の時間の長短を気にすることなく大胆に投資することも可能です。
 今大切なのは、何を買えば上がるかを考えるより、まず、自分の資金状況はどうなっているかを確認することだということは疑いありません。
 
次に大切なのは、自分の買おうとする銘柄は、本当に大丈夫か?ということです。
 中低位株の場合はもちろんですが、値嵩株だから大丈夫ともいえません。マイカルだって97年までは、結構な値嵩株だったのですから。また、つぶれなくても、事業基盤がボロボロになる怖れがあれば、もちろん避けるべきです。
 (半導体を中心に赤字転落企業が増えていますが、業績がボロボロになっても、それが今の経済環境による一時的なものか、それとも事業基盤そのものに不安が生じているのかは、はっきり区別する必要があります)

 私見では、日本株市場では、バブル崩壊後も危ない銘柄なのに上場しているというだけで高く買われていたり、収益の魅力がないのにイメージだけで割高に買われている銘柄が多かったと思いますが、現在では、少なくとも200円以上のほとんどの銘柄が、ほぼ事業基盤が大丈夫だし、保有する魅力のある水準にあると思います。

 その中で何を買うべきか? 気持に余裕があれば、ぜひ大いに論議したいものです。


第105回 ジェットコースター<9/18>

 先週からの相場は、まさにジェットコースターに乗っているようなものですね。急落、急反発、急落の繰り返しで、幸いにして米国再開後初日の今日は上げムードです。
 ジェットコースターがなぜ怖いかといえば、いうまでもなく落ちることそのものにつきまとう本能的な怖さです。しかし、落ちても死ぬわけではない、ベルトがあるから空中に放り出されるはずがなく、所詮はレールの通り動くだけじゃないかと自分に言い聞かせれば、男ならたいていは我慢できます。
 その点で、昨夜の怖さは、ちょっと別格でした。夜の10時半にパソコンの前に座るについて、下腹に力を入れる必要がありました。まさかとは思うものの、これから乗るジェットコースターが軌道からはずれて、暗闇の中に放り出されていくことも絶対ないとはいえなかったからです。

 怖い思いはしたくないからと、昨日の安いところを売った顧客もいますが、その顧客が馬鹿だとは全然思いません。そして、仮にその人が同じ銘柄を今日買ったとしても、それも決して馬鹿げたこととは思いません。昨日と今日は、明らかに違う日であり、その違いのために10%以内のコストを負担することは、この乱高下の状況の中では異常なこととも思えないからです。

 今日は、負担するリスクの大きさの点で昨日とは明らかに違う日です。しかし、不思議なことに今日大幅安で始まった銘柄もあります。私が気づいたところでは、日本ビジコン(9889)です。いきなり40円安の1381円売り気配が出ましたが、悪材料が出たかと思い、調べているうちに買い逃してしまいました。今は逆に100円高です。CTC(4739)に限らず、ソリューション関連は当面の業績不安がなくPERも低くなっているので、弱気になる必要はないと思っています。
 半導体関連でたまたま13日に赤字に業績予想を出したTOWA(6315)が2日連続ストップ安の後、今日も70円安になったのにも驚きました。新川や三井ハイテクと同じく赤字は当たり前のことで、株価は当然織り込んでいるはずと思っていたのですが、業績修正のタイミングが悪かったのだと思います。こちらは大阪の寄付の714円が買え、730円まで追撃したところ750〜770円に戻っています。
 TOWAが赤字でも700円台が買い場と判断する根拠は次の通りです。
1. 資産内容は良好で、1株純資産は1100円台。
2. 業績変化率はつねに高く、シリコンサイクル次第では、前期の100円以上の1株利益への復帰も夢ではない。
3. 変動期の株価は、ボラティリティー(変動性)そのものに価値を見出すことも多い。
(これはファンダメンタルズ抜きの思惑)

 今後の相場がどうなるのか依然予断を許しません。しかし、どんなに悲観的に考えても、昨日までのような、ジェットコースターそのものがレールをはずれて宙に放り出されてしまう恐怖からは大幅に解放されており、下向きの軌道がいつまで続くかはさておき、いつかは再び上昇軌道に入るのだという希望を持ち続けることができます。

 私見では、昨夜の米国半導体株指数が4月安値の上でかろうじて持ちこたえましたので、
NYダウの先行きはさておき、ハイテク中心のナスダック指数の出直りには相当希望があると考えます。願わくば、今回の事件が、昨年9月のインテルショックにより本格化したハイテク下落相場の悪材料の止め(セリング・クライマックス)になってほしいものです。


第104回 予想は二の次<9/13>

 一昨日、私は「ある朝起きてみたら・・・・」と、偶然にもブラックマンデーを引き合いに出しました。しかし、まさかそれに近い状況が、その日の夜に待っているとは夢にも思っていませんでした。
 「ブッラクマンデーは非現実的としても、日経平均の9000円くらいはかなりありえますので」と書きましたが、それに近い状況が次の日に襲ってくるとさえ、正直なところ、夢にも思っていませんでした。
 昨日は朝から、自分が自分でないような形で忙殺されたものの、終ってみたら、わりと冷静な対応ができたと思います。曲がりなりにも、悪い想像をして、少しは心の準備をしていたのが役立ちました。

 今日は、信用の追証対策はほぼ目処がたち、米国市場が開くのは早くても明日なので、余裕を持った気持で相場をながめていられます。
 合同製鉄が急回復となり嬉しい限りです。昨日の70円台をもっと買っておけばと少しは残念ですが、この反発で私と私の顧客以外にもこの株の値打ちを評価する人が大勢いるということが何より心強いことです。
 合同は内需の中低位なので買われている側面もあるのでしょうが、半導体関連の中小型が下値不安からぼろぼろと売られる中で、ステラケミファが1500円の水準をキープしていることも心強いことです。先にこってり売られたという需給要因も支援しているものの、魅力のない株だったらさらに急落したはずです。
 株の値打ちに信じるに足るものがあり、当面の資金にゆとりがあれば、多少のガラは怖くないという気持を強めています。

 ガラは怖いものです。早く売らなければ買い物がなくなるという恐怖は、何回経験しても足をすくませてしまいます。特に、私はわりと小型株を勧めているので、店頭株や二部などでは、文字通り買い物が消滅してしまうことがあります。またあったとしても、持ち株数が多い場合は、自分の売りで相場を急落させ、ますます自分の首を絞めてしまうことにもなります。
 しかし、持ち株の値打ちに信じるに足るものがあり、当座に換金する必要がなければ、急落を恐れる必要はないと言っても過言ではありません。もしさらに買い増しする余裕があるなら、むしろ株価下落を喜ぶ心境にさえなれるかもしれません。(お客様の中には、事実そういう心境に達している人もいるようですが、私はその心境にまではなかなか到達できそうもありません)

 米国市場が再開された後、いったいどのような状況が待っているのか、私には予想することさえできません。ただし、いろいろなケースをなるべく多く想像し、できるだけ準備しておくことはできます。
 世界大恐慌が再発すると考えるなら、どんな株も買うべきではありません。その事態ももちろん可能性はあるのでしょうが、私自身はそれだけ(世界経済が単なる停滞に止まらず急縮小に向かう事態)はないという立場を選択しています。もし、お客様もその立場を選んで悔いなしと思われるなら、現在は明らかに買い向かう状況と考えます。仮に米国のリセッションが深刻化し、相場がさらに下げることがあっても、財務内容に問題のない企業はそれに耐え、遠くない将来に収益力を回復してくると確信するからです。

 現在は、予想は二の次の段階であり、何よりも問われているのは、自分がどのような形の投資スタンスに立ち、予想される様々なケースにどのように対処するかを明確に選択することだと思います。


第103回 分かることと分からないこと<9/11>

 一部の信用顧客の危機的な状況が続いており、胃の底にひっきりなしにストレスがかかっています。このままだと気力体力がなくなり、判断力の欠如から、かえって顧客に迷惑をかけてしまうので、ストレスを発散する必要があります。
 手軽なストレス発散は酒を飲むことですが、ストレスの根が深いときはあまり役に立ちませんね。私にとって、もっとも効き目があるのは、思いきり最悪状態を想像してしまうことです。

 例えば今のように、相場の先行きが不安で、心配なあまり精神の均衡を欠きそうになっているときは、いっそある朝起きてみたら、アメリカにブッラクマンデーが再来していたと想像してみるのですね。東京市場も軒並みストップ安になったとしたら、信用顧客の中には担保切れも当然出てきます。壮絶な状況の中で、さて私はどうしようかと他人事みたいに考えます。もはやくよくよしても仕方がないのですから、ガードマンの仕事にありつければそれでよし、なければないで、まさか飢え死にすることはないだろうと考えていくと、だいぶ気が楽になります。
 ブラックマンデーは非現実的としても、日経平均の9000円くらいはかなりありえますので、昨日はその段階でのいちばんひどい顧客の持ち株状況を想定してみました。その結果は普通の感覚ではつらい状況ですが、昨年7月のピーク比では12分の1、当初元本の3分の1くらいは確保できそうで、生きるか死ぬかの問題よりもやや軽い状況ということが分かりました。
 それやこれや、いっそ悪くなった場合をいろいろ考えているうちに、いわば開き直った形で、心の落ち着きが戻ってきます。明るいことを考えるのはそれからですね。

 合同製鉄がとうとう84円に下がりました。いったいいくらまで下がるかと顧客から聞かれますが、答えようがありません。今年1月の安値は68円です。今のような買い手の少ない市場では、売る人がいる限りまだまだ下がるかもしれません。ただし、これだけはほぼ確実と思えるのは、9月の中間決算では会社予想の連結17億円の経常利益を達成するだろうということです。それだけで1株利益10円相当を確保できます。
 下期のことはまだ分からんと言われてしまえばそれまでですが、景気の多少の後退を見込んでも、この業界の下期の収益環境が激変することは考えにくい状況です。目下、協調減産により鉄筋棒鋼の関東における採算は非常に安定しており、関東だけに特化している東京鉄鋼には大幅な増額修正の可能性があるという観測さえなされます。
 東京鉄鋼は財務内容が悪いため、いくら業績がよくても復配は困難ですが、合同製鉄は利益さえ挙がれば復配の態勢が整っています。
 私に分かることは、通常の確率では合同製鉄の好業績は続き、今期復配するだろうということです。しかし、その決定はまだ随分先ですから、それまでに「一寸先のことは分からん」ということで、株を売る人がどのくらい出るか、それについては日経平均の下値が分からないのと同様、まったく分からないのです。

 何もかもが不安なときですが、何もかもが分からないとヤケクソになったらお終いだと思います。分からないこと、不安なことの多い今だからこそ、自分に分かることと分からないことの区別だけははっきりつけておきたいものです。


第102回 いよいよ背水<9/7>

 日経平均は最安値ではありませんが、私の顧客の持ち株評価はほとんどの人で最安値更新です。
 信用を目一杯利用している人は、当然ながら追証です。ある顧客は、私の手数料実績の中でもっとも大きな比重を占める人ですが、取引を開始して以来の16年間で最大の危機に瀕しています。この顧客の場合、資産のほとんどを株式に投入している形なので、顧客のほうでは少しだったら現金も追加できると言っていますが、私はもうこれ以上の無理をせず、下がったら、下がった分だけ撤退していきましょうと意見を述べ、顧客もその方針に同意しています。
 本当は、今こそ強気を述べなければならないのでしょうが、その顧客の場合は負担できるリスクの限度に近づいている以上、最悪のケースを想定したうえで、相場観抜きの対応をしていかざるをえないのです。

 現物でかつ余裕資金だけの取引なら、話は別です。仮に日経平均が9500円に下げても、平均株価で10%の下げですから、普通の銘柄なら、20%の下げを見込めば十分のはずです。もちろん、そこからさらに下げるリスクもあるのですが、日本経済が崩壊に向かうのでない限り、そこからの下げは必ず短期的に修正される性質のものでしょう。
 日本経済が崩壊してもビタ一文損したくない人は別にして、そのようなレアケースの場合は損しても仕方がないと覚悟がつく人にとっては、現在はリスクとリターンを天秤にかけた上で、相当にいい買い時期だと私は思います。

 株のいい買い場は、私見では次の3種類です。
  @ 弱気のピーク(セリング・クライマックス)
  A なだらかな上昇局面(株価上昇の好循環で需給関係が良好)
  B 投資価値に比べ割安と確信できるとき
 このうち、現在がAの局面ではないことは明らかです。また、@であると言い切ることも難しい局面です。今夜、仮に米国のハイテク株が急騰すれば、結果的に今日が弱気のピークだったということにもなりえますが、現時点では単なる希望的な観測にしか過ぎません。
 それに対して、Bについては、市場の需給関係は無視できますので、どのような市場環境化にあっても、その判断を持つことは可能です。

 その判断を形成するのに必要なことは、平均株価がいくらまで下がるかではなく、その企業の基盤は大丈夫か?ということです。現在のような局面では、何もかもが不安なので、よほど頑丈な企業でない限り、心配になります。しかし、冷静に考えれば、心配すべきことと心配すべきでないことの区別はつきます。
 例えば、いま合同製鉄が6円安の91円に売られています。川鉄やNKKに赤字予想が出て急落しているため、連れ安になった形です。しかし、冷静に考えれば、この会社と高炉大手の収益構造はまったく違います。主力製品の鉄筋棒鋼と原料スクラップとのスプレッドは好調に推移しており、少なくとも中間期では減額修正の可能性はきわめて小さいはずです。では、下期は世の中がまっ暗になり、収益の前提条件がまったく変わってくるのではないか?と心配になります。しかし、それは合同製鉄だけの問題ではなく、全体の問題ですから、この銘柄が大丈夫かどうかという問題の検討とは切り離すべきでしょう。
 私は、景況が底割れ的な悪化に陥らない限り、合同製鉄の今期の収益は予想水準を達成し、復配に進むと考えます。

 合同製鉄以外にも、私が割安を確信している銘柄は数多くあります。例えば、昨日はストップ高しましたが、伊藤忠テクノ(CTC, 4739)は今週月曜には7570円まで売られました。高成長の確実性が高く、収益基盤も頑丈な企業がPER25倍まで売られたのは、いくらなんでも低評価に過ぎると思います。
 多分、いま投資家の買い意欲を鈍らしているのは、日本経済崩壊の不安もさることながら、日経平均が下がるなら、自分が魅力を感じる銘柄ももっと下がるだろうという観測が大きな比重を占めているはずです。そして、多くの人がそう思う限り、銘柄がどんなに魅力的であっても、目先は値下がり圧力を強く受けます。
 その値下がり圧力(需給関係)と、銘柄の投資魅力を天秤にかけたうえで、最終的な投資行動が決まってくるわけですが、需給関係は案外に流動的な側面も持っています。これからは日々つねに、転機を迎える可能性があることを考えておくべきでしょう。


第101回 日経平均<9/4>

 我々は株価水準をどうしても日経平均で考えてしまいます。
 年配の証券マンが日経平均のことを今でも「ダウ」と言うように、昔は東証ダウ平均と呼ばれ、取引所の正式指数だったわけですが、今では、日経新聞社に所有権のある指数に過ぎません。
 NY市場の代表的な指数としてダウ平均が生き残っているように、日経平均もそれなりに存在意義を発揮してもよいと思いますが、日本の場合はあまりにも日経平均のみに傾斜し過ぎていると私は思います。

 市場参加者の合言葉みたいになっているのはともかく、先物取引や株価連動型投信やリンク債のほとんどがこの指数を採用しているため、様々な弊害があります。単純平均の仕組みと特殊な額面主義にこだわっているため、恣意的な動きをしやすいのです。例えばNTTは、1億分円くらいの注文を入れても株価はほとんど動かないでしょうが、NTTデータなら大幅に動きます。しかも、驚くべきことに両銘柄は似たような価格なのに、NTTの10倍の割合で指数に反映するのです。
 浮動株が各段に少ないデータの高安が、その巨大な親や巨大なドコモよりも日経平均に対して10倍の影響を与えるというのは、だれが考えても矛盾のはずです。

 株価指数問題に関する限り、日経新聞の報道姿勢には疑問を感じます。例えば先日、銀行の持ち株の評価損益問題で、TOPIXのほうがより実態を表しているのではないかという政府高官の発言が朝日に載っていましたが、日経新聞にはこのコメントは出ていなかったと思います。また東証はこの夏からSP/TOPIX150という新指数を普及に努めていますが、そのことについての記事を私は日経で見たことがありません。報道してはいても、よほど目立たないようにしているのではないかと感じます。

 日経平均では連日の最安値更新ですが、東証株価指数(TOPIX)で見れば、3年前の最安値から見ればまだ10%ほど上値にあります。もし全員がTOPIXで株価水準を語れば、論調は随分変わったものになるはずです。もっとも、銀行の持ち株問題は、益出しクロスで帳簿価格が上昇しているので、単純に楽観はできないのですが、少なくとも不安感は随分軽減されます。

 何か今回は、株安のうらみを日経平均にぶつけたような形になりましたが、たとえ株高の中でもつねに感じてきた不透明さがこの指数にはあります。
 私は、銘柄数は少なくても、SP/TOPIX150という新指数のほうが先物取引等に適合していると考えます。

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