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第150回 順当な推移<3/11>

 今日は昼休みにこれを書いています。だんだん忙しくなってきたからです。間もなく、一日が終ってからしか書けなくなるでしょう。
 今の相場は異常だと言う人がいますが、この1〜2年も異常でした。私など、相場が急落している日以外は毎日暇で、ザラ場中に何冊本を読んだことか。司馬遼太郎をひとわたり読んでしまって、税理士試験でも目指そうかと思い、簿記の本を何冊か読み終えたところで、さすがに本を読むほどには暇ではなくなってきました。

 先週の金曜日は、最近になく忙しく過ごしました。相場の裾野が広がってきて、出遅れ株にも動兆が出てきたからです。
 私に限りませんが、顧客の中で、早めに強気に転換できた人はごく少数です。少数の人は、合同鉄・丸紅など低位の持株がこのところ重いのは残念としても、値嵩ハイテクや銀行・証券のバリバリのところが相当な買いポジションになっているので、相場に取り残される心配はしていません。しかし、それ以外の多くの顧客は塩漬け株を持ったきりです。
 塩漬け株だってそのうち上昇するはずなので、馬鹿にはしていません。しかし、折角の上昇局面なので、もっともっと持株を増やしてもらいたいのです。仮に今回の相場転換が6月頃までのものだとしても、今月中に新たな銘柄を買い入れて、ある程度の評価益を得ておかなければ、4月以降に予想される選別物色相場に乗れないと危惧します。

 今日の前場は日経平均53円安。我々の仲間にはがっかりした雰囲気も漂っていますが、私はむしろ大歓迎の展開だと思っています。日経平均と銀行株だけ上がったら、それこそ異常で危険です。今日はTOPIXほか日経平均以外の指数は上昇しており、一般株の地合いが日経平均にキャッチアップしていく傾向が定着すれば、今回の反騰相場のスケールはますます大きいと確信できます。

 今日は比較的に暇にしていますが、金曜日には日立キャピタル(8586)を手当たりに勧め、件数では久々に相当な数で買ってもらいました。前回書いた合同を92円で売ってしまった顧客にもしぶとく勧誘し、引け際にやっと成約しました。
 日立キャピタルに絞って勧めたのは、強く勧めて思惑はずれのことが起こっても、大きな下げ幅になる可能性が小さいと一応の安心があることと、銀行株の戻りが続けば、出遅れ株として当然買われるはずだと確信できるからです。
 やや上がったところを勧めまくって、すぐに往って来いになったら困るなとちょっと心配だったのですが、今日は今のところ続伸しており、ほっとしています。
 顧客にはとりあえず1月高値の2030円奪回目標と言っておりますが、本音はもしこの株が上昇したら、その評価益をバネに、4〜6月相場で活躍しそうな銘柄をさらに仕込んでもらうことが目標です。
 今日は、東京エレクやアドバンテストの反落は意外ではないとしても、丸紅や合同製鉄など低位株が引き続き見送られており、個人投資家の多くは元気がありません。でも、私は今月は基本的に全面高になり、順番だけの問題と楽観しています。
 銘柄選別で根本的に明暗が生じるのは、おそらく来月からだと思っています。


第149回 何をどう買うか<3/7>

 今日は暇なので、8時過ぎにこれを書いています。なぜ暇かというと、情けない話ですが、これだけ相場が上昇しても、買いのモードに入っている顧客はごく少数で、かつあれを売ってこれを買おうという営業は今の段階ではやってないので、暇なのです。

 ちょうど今、古くからの顧客から電話があり、売り注文を受注しました。銘柄は合同製鉄で、「また80円台になったら、買うから」というのですが、親しい顧客なので、私はむきになって声を張り上げました。「日本株がもうだめだと思うのなら、売ってください。でも、捨てたものじゃないと思うなら、今はそんなちょこまかした考えで動かないほうがいいんじゃないんですか」と。しかし、顧客は、結局のところ、不安なので売る、ということで、私も情けなくも、親しいはずのその顧客にさえ、それ以上強く自分の意見を主張することはできませんでした。

 私は本音で、この段階で考えるべきことは、どのくらい買いを増やすかであって、何をどう買うかは二の次、ましてや何々が上がったから利食っておこうかと考えることは三の次以下でよいと考えています。
 もし今回の上昇が数年に一度の本格反騰につながるとすれば、少なくとも数ヶ月の規模で収益獲得のチャンスがあります。恐るべきことは、初動期の上げに乗り遅れることではなく、その数年に一度のチャンスをたいした成果もなく過ごしてしまうことです。
 例えば93年3月の場合、初動期には「新社会資本」のテーマのもと、NTTやフジクラがガンガン上がりましたが、4月2日に高値を打ち、これを売りそこない、しかもその後もこだわり続けた人は、結局せっかくの上げ相場を棒に振ってしまいました。
 今回は、さしずめ東京エレクなどが最初に高値打ちする有力候補ですが、それでも今の段階では、相場が上がれば、高値も切り上がると考えてよいと思い、乱暴に言えば、つぶれる株と電力などディフェンシブ株を除けば、全部上がると考えています。
 おそらく本格的に銘柄選別の必要が生じるのは、4月以降だと思います。93年の場合は、ここから天国と地獄の差が生じました。

 私の目下の急務は、いかに顧客を奮い立たせるかです。相場には絶対はないのだから、むげに買いを勧めてまた損をさせたら・・・・という弱気と戦いながら、今買わないと逆に危険なのだと自分に言い聞かせ、いろいろ工夫しています。
 顧客を奮い立たせる一番の特効薬は、姑息ですが、まずちょっとだけ買ってもらい、利食ってはずみをつけることです。
 先日、こんな空振りをしてしまいました。先週金曜日に、東京鉄鋼をある顧客に勧めました。この2年間で大損をし、すっかり気持が冷え切っていたのですが、思いがけず、買おうと言ってくれました。そのとき時価は148円で、46カイ48ヤリ、1万株成行で買っても150円まで買えたのですが、顧客も弱気、私ももうこれ以上ビタ1文損をさせたくない心境なので、147円での指値受注となりました。その後、売りが出ないまま50円にあった万株単位の売りが減ってきたので、顧客に電話し50円まで上げてもらったところ、訂正したときは時すでに遅く、そのまま上がり続け、翌日午前中に188円まで達しました。
 勧めの狙いは、とりあえず2割高だったので、もし買えていれば180円台で利食っています。そしてもし、30万円でも利食っていれば、次は当然、300万円くらいの買いはやってくれるはずで、もしそれが少しでも強含みに動くようだったら、気をよくしてさらにもう300万円くらいの買いを受注できるはずでした。
 この顧客に対しては、代りにハイテク系を勧めて、若干上昇しており、またいずれ完全な強気態勢に入れるとは思いますが、とりあえずは大失敗でした。

 何をどう買うかで書き出した文章ですが、私の現況を書くことで終ってしまいそうです。銘柄選別は二の次ではあまりにも乱暴なので、一言だけ触れておけば、今回の相場では市況関連が必ずや買われると考えます。(逆にいえば、世界景気の回復ムードが持続しなければ、株の本格反騰はないはず)したがって、景気敏感な電炉の中でも、合同製鉄と東京鉄鋼は価格変動性の高い棒鋼比率が高いため、最終的には相当な値上がり率を達成すると考えています。今日、その東京鉄鋼(5445)が150円台に落ちており、私は買いチャンスだと思います。


第148回 待望の3月初旬高<3/5>

 昨日の日経平均は月曜日早々、あっと驚く638円高。5.9%の上昇率は他の株価指数より突出した上げ率になっており、依然日経平均への異常な偏りが目立つとはいえ、一般の銘柄にもそこそこの買いが入るようになり、まんざら「管理相場」とばかりは言えなくなってきたはずです。
 大底を打つときは、当然ながら上昇に対して懐疑的なムードが強いわけですが、今回ほど、証券界を上げてしらけきっていることは、珍しいのではないでしょうか。なまじっかの株価上昇は構造改革の遅れにつながるというのが大方の意見です。
 私は政治評論家ではないので、日本の構造改革がどう進めばよいのかということでは、意見を保留します。しかし、構造改革が進もうが進むまいが日本の株の大多数は、割安な水準にあり、市場マインド次第で大きく上値余地が開けると考えます。
 割安な株を買い、利益を獲得するということが我々の第一の使命であるはずです。何が何でも株高がつねによいとは限りませんが、我々にとって一番嫌うべきは、どんなにその株が割安でも、市場全体が活力を失い、買い手不在でずるずると下がってしまうことです。だから、今の株価上昇は、素直に歓迎したいと思います。

 今日は、銀行株が一段高しているものの、日経平均は反落しています。これに対しても、前向きに受け止めたいと思います。これまでは日経平均の上昇は、市場マインドの改善に大きく貢献しましたが、このまま日経平均中心の上昇が続けば、株価構造がいびつなものになる恐れがあります。日経平均に採用されていない一般銘柄にまで買い気が回ってこないようでは、本当に市場マインドが改善されたとはいえないはずです。
 出遅れ、出遅れと狙うのは、普通はカスを引き、よくないと言われます。しかし、現在の株価上昇が、相当なスケールを持った反騰につながるとすれば、日経平均採用銘柄だけが上昇するようなケチなものではないはずです。3年前の本格反騰は、3月を通じての全面高に始まりました。
 だから、昨日あたりから、主力株ではなく、やや出遅れの中小型銘柄に買い銘柄をシフトしています。丸三証券は、マイナーな銘柄ながら、今日も続伸しており、大手証券を買うより成功した形の途中経過になっています。

 もっとも、とりあえず今は、何を買うかよりも、買いのポジションを増やし、本格反騰に備えることこそ至上課題と考えています。反落はつねに心配なことですが、ある程度可能性が高まりつつある本格反騰に置き去りにされることのほうが、もっと心配すべき局面だと思うからです。


第147回 懐疑と悲観<2/28>

 2月の投資家心理は、相場そのものに対しては総悲観とまでは行かなくても、日本の政治と経済の現状に対しては、「あきらめ」の極地に近い気分まで追い込まれたといってよいでしょう。
 昨日発表されたデフレ対策に対して、評価する人はほとんどいません。昨日の思いがけない日経平均370円高に対してさえも、所詮は、問題先延ばしのPKOであり、長続きするわけがないという「しらけ」た気分が市場に漂っています。
悲観が相場底入れの条件といわれ、懐疑の中で相場は育つといわれます。今の市場のセンチメントである「あきらめ」と「しらけ」は、かなりの程度でその条件を満たしていると私は思うのですが、どうでしょうか?

 前回書いたダイエーに対する反応は、今の市場の「しらけ」を端的に表わしています。私は、ほんの少ししか買っていないので、あまり上がらない悔しさで書くわけではないのですが、どう考えても、もう少し強気の意見があって、強弱感が対立してもよいのではないかと思われます。
 本来は99%どころか、ゼロの価値になっても文句がいえないところ、とりあえず「もしかすると、やれる」というところまで、借金を棒引きにしてもらい、かつ現在の1株あたりの持分は、2分の1に株式併合後1億株の新株発行を考慮しても、普通株全体の9億分の1を維持し、現在の7億分の1と比べそれほどは希薄化しません。
 もちろん、今後も1兆円以上の有利子負債を抱え、前途が明るいとは決していえないものの、強弱が対立するならともかく、負債が大きいからダメだと悲観的にばかり傾いてしまう現在の風潮は、あまりにも「しらけ」過ぎているのではないかと考えるのです。

 「悲観」はともかく「懐疑」や「しらけ」は一見冷静で、インテリジェントな気分です。昔の証券マンには珍しかった気分ですが、今は大半の証券マンがその気分でものを言っています。
 そのこと自体は進歩したかものかもしれませんが、だれもが同じようなしかめつらしいい顔をして、考え深げに発言しているのを見ると、本当に自分の頭で考えてものを言っているのかと、それこそ懐疑したくなります。
 「不良債権問題に抜本的な解決策がない限り、相場は本物にはならない」とだれもが言います。しかし、10数年前「債権大国なのだから、株は高くて当然」、2年前には「100年に一度のインターネット革命」という群集心理で行け行けドンドンの売買に明け暮れた頃と、現象は逆でも、根本の発想は似たところがあるのではないかと私には思えてなりません。
 自分の頭で考えるということが本当の「懐疑」であるはずで、自分自身で考え、懐疑し、悲観する(あるいは静観する)というのなら、その意見は尊重されるべきでしょう。しかし、証券マンのほとんどは、昔も今も他人の言葉に動かされやすく、付和雷同の同じ顔をしていると私は思います。

 相場は今日も思いがけない上昇となっています。私も3月に入っての上昇を想定していたので、むしろ戸惑っています。
 ただし、戸惑いつつも、この流れには付いていくべきと考え、主力株系を中心に買いポジションを増やしています。
 この流れに付くべきと思う理由は、まず第1に、2年間下げてきた相場で、少なくとも高値圏ではないということです。第2に、安値圏であっても、大底につきものの最後の下ブレが怖いところですが、政府が問題先延ばしのほうに大きく舵を取りつつあることは、評価は別にして、大きな下ぶれリスクの可能性も減少していると考えれられることです。第3に、市場のムードがまだやや悲観的で、その意味から有望だということです。
 以上を総合して、リスクとリターンを天秤にかけると、リターンのほうに明らかに天秤が傾いており、したがって、買いに分があると考えます。

 問題は何を買うかですが、私は目先的には、主力ハイテクの中の出遅れがよいと思い、例えば本当は魅力を感じないNECや重電を買い、これは成功しています。また、主力株に抵抗があり、かつ相場にも付きたいという顧客には、いろいろ考えて丸三証券を勧めることにしています。しかし、本線とすべきは、不人気であっても、これは安いと心底思えるような銘柄への投資であるはずなので、じっくりと長期に保有できる銘柄を顧客との間ですり合わせしていきたいと考えています。
 バリュー株の一つと考えていた日立キャピタル(8586)が今日78円安の1569円と急落し、安値を更新しています。一昨日の減額修正が1日遅れで響いた形ですが、今日の下げは期末特有の投げで、買い向かうべきと考えます。


第146回 <2/25>

 週末にダイエーの99%減資が伝えられたとき、その大見出しを見て、ダイエー株は紙くずに近くなったのかと思いました。
 しかし、各紙の伝えるところによれば、どうもそうではないということが分かりました。減資はするけど、既存株主の持ち株数は減らないようです。

 通常の減資なら、既存株主の株数を大幅に減らした後に、新株に対する払い込みが行われ、既存株主の持ち株比率が大幅に低下します。だから、その会社が健全性を取り戻しても、その成果に対する既存株主の取り分は大幅に減少します。
 ところが、ダイエーの場合は、既存株主の株数を減らさず、しかも債務の株式化も優先株を中心とするので、増加する普通株は1億株前後になる見込みです。
 とすれば、現在の約8億株の発行済み株式は、ダイエーの再建が成功した場合は、そのほとんどの成果を享受できることになります。
(追記、今日のダイエー自身の声明では、場合によっては2株を1株への併合も検討されているようですが、いずれにしても既存株主に決定的なダメージを与えない方向で結論が出そうな様子です)

 今日終ってみれば、どうなっているかはまったく分かりませんが、ダイエーは今日30円安の88円で始まり、今もその値段を前後しています。
 私はどう見ても安いと思い、リスクを承知してくれそうな顧客に連絡しました。でも、悲しいかな、今の状況下では、なかなか私のほうから「行ってみましょう」とは言える顧客は少ないのですね。

 ここまで書いたところで、98円の20円安と持ち直し気味になりました。ダイエーの減資問題をどう考えるかは、実は、日本の不良債権処理と金融システムの安定がどうなるかの強弱の分れ目になると考えます。

 私はダイエーの減資が報道の通り行われるなら、既存株主に対する過剰サービスとも考えられ、当局のなりふり構わぬ株価対策であると考えます。しかし、もし成功すれば、株式市場のマインドは大きく変わるはずです。なぜなら、日本特有のご都合主義的な解決、問題先送りだという批判する声は当然上がるものの、長い間痛めつけられた塩漬け株主にとって、久々に株式投資も捨てたものではないという明るい気持が生まれるからです。
 人々に明るい気持が生まれれば、株価は安く見え、株価が上昇すれば銀行の体力や不良債権問題にも別の見方が生まれます。
 問題が何もかもあいまいになり、みんなで仲良くということになれば、なんのための改革の日々だったか分からなくなりますが、後戻りしない範囲であれば、ほどほどの「改革」の一服とつかの間のやすらぎがむしろ歓迎できる時期になっていると言えるのではないでしょうか。
 ダイエーと一緒にするのは失礼ですが、丸紅の100円回復も有望となってきました。日本の金融システムが安定感を取り戻しつつある現状を象徴しているものと思われます。


第145回 本当に過剰債務なのか?<2/21>

 長谷工コーポが債務の株式化を銀行に要請し、実現する見込みと伝えられました。非常によいニュースだと思います。長谷工は、あてがい扶持の公共事業で生きている企業ではないので、バブル期の不良資産と過大債務さえ整理できれば、生き残る社会的意義は十分にあると考えられます。

 ダイエーの場合もそうでしたが、産業再生法により銀行の抱える債権を株式化することは、大いに有効なスキームだと思います。ただし、問題は株式化する価値がその企業にあるかどうかです。残念ながら、債務超過すれすれでアップアップしている企業は、多くの場合、過大債務もさることながら、真の収益展望に問題があり、その債務を株式化する価値があるかどうか疑問だと思われます。

 企業の魅力は本来、借金の多寡ではなく、収益力のはずです。ところが、昨年以来の株式市場は、不良債権問題に神経質になるあまりに、まるで借金をすることは悪、借金を減らすことは善、というような反応を示しています。
 昨年末に丸紅やミノルタが急落したのはその典型です。ミノルタはさておき、商社である丸紅が借金が多いという理由で売られたのは、まるで銀行が顧客からの借金(預金)が多いという理由で売られたようなもので、不可思議な論理です。
 先週「日経ビジネス」がソフトバンクの経営が不安という特集を組みましたが、売上高や営業利益に比べ借金が多いということを問題にしています。しかし、ソフトバンクという一種の投資信託みたいな会社に対して、借金の大きさ自体を問題にするのは明らかに的外れです。問題は投資信託が成功するかどうかであり、しかもその投信は超過激なタイプですから、今のネット株の不振が数年にわたり続けば危ないということはだれもが予想することではないでしょうか。

 いまの日本は過剰債務、過剰債務とまるで日本中が貧乏になってしまったかのように、あまりにも借金に対して消極的になり過ぎていると私は思います。冷静に考えて、日本は借金国ではありません。それからまた、日本の中で、債権と債務が入り乱れていることも悪いことではないはずです。問題は一部企業の過大債務と国を始めとする行政の赤字ですが、私にはそれも本質的な問題とは思えません。
 本当の問題は、金融にあるわけでなく、真の競争力(独自の収益力)を持たないままずるずると生き残ってきた企業と肥満した行政の体質そのものにあるはずです。
 それらが淘汰されることにより、産業の過剰設備は是正され、筋肉質の日本経済が再生されるはずです。
 だから、今の緊急の問題は、借金をどう減らすかかではなく、社会的に存在意義の乏しい企業や役所をどう淘汰するかであり、淘汰された企業に対しては安易に再生法や更生法を適用すべきではないと考えます。
 すなわち、過剰債務が問題なのではなく、過剰設備こそが真の問題であり、役所とゼネコンなど悲劇的な業種を除けば、案外に需給バランスの回復が見え始めているのではないかと私は考えます。(最近の商品市況の堅調はそのことを示唆するものと考えます)

 ところで、今日、ローランドDG(6789)が80円高の615円と急騰して始まりました。資産内容、業績、配当のすべての面で安心感があり、かつ私見では、成長期待もあり、不人気ながら特筆すべき割安株なので、上値余地はまだ十分にあると考えます。
 書き終わる頃、日経平均がまた1万円を回復しました。なぜ高いかという質問に、日本経済の潜在力と景気の小康を見直す動きではないかと答えました。


第144回 日本経済と団塊の世代<2/19>

 浅間山荘事件から、今日で30年目だそうです。
 私は団塊の世代です。だから、その事件にも特別な感慨があります。三島由紀夫の割腹事件のときもそうでしたが、麻雀をしながらそのニュースを聞いたと思います。
 安田講堂に東大生が立てこもった頃は血気盛んな我々でしたが、それから3年をへて、我々の多くが生意気の鼻をへし折られて、しょぼくれた気持で毎日を過ごしていたのでした。

 我々団塊の世代はつねに貧乏くじを引いているといわれます。苛烈な受験戦争や出世争いをくぐり抜け、やっと自分たちが上に立てる時代が来たかと思った矢先に、日本経済の膨張が終わり、40代後半から企業の不要人材の最たるものに指名される始末です。おまけに我々が年金をもらう頃は、だれがその分を負担するかが論議されており、頼りの息子たち(団塊ジュニア)も就職難でフリーター続出ですから、どこまで行っても楽にならず、もしかすると、我々が貧乏くじを引いているのではなく、我々が日本経済の貧乏神になっているのではないかと思えるほどです。

 しかし、実のところ、私はそうは思いません。どういうつもりで我々の親たちが子作りに励んだかはさておき、少なくとも我々が生まれたことにより、経済に活気が生じたはずです。小学校の低学年では、しらみ取りのDDTを頭にかぶった我々ですが、高学年の頃にはTVや冷蔵庫が普及し始め、東京オリンピックはカラーTVで観ることができました。
 日経平均は取引所が再開されて40年目にピークをつけましたが、我々も40年間にわたり、日本経済の躍進を満喫できたのです。

 日本経済の今後を考えるうえでも、我々の存在は一つの鍵を握っているといえます。暗く考えれば、我々はもはや経済の最先端を担うに足りる人材ではなく、余剰人材であり、将来への重い負担でしかありませんが、まだ少なくとも10年位は、潜在的には即戦力となりうる人材供給源としてあり続けます。
 経済は、供給過剰によって衰えるわけではありません。日本経済は供給過剰(過剰設備と過剰人員)の調整にあえいでいますが、それ自体は時が解決します。
 経済にとって本当に恐ろしいのは、経済の荒廃による供給能力の縮小です。通貨の暴落やインフレが起こるとしたら、その時です。
 その意味で、まだ当分は、日本経済は最低限の活力を保持していけると私は考えます。
 
 今日の日経金融で、海外投資家にとって日本経済は3つのB(弱気、うんざり、憤り)だと揶揄してありますが、今の状況はまさしくその通りでしょう。しかし、今の状況は過去の株価を作るものであり、今後の株価がどうなるかとは別の問題です。
 嘆かず、愚痴らず、今はじっと3月初旬に照準を合わせています。


第143回 3月に向けての作戦構図<2/15>

 先週はみずほが20万円を割るなど、悲壮感さえ漂いましたが、現在までの推移は、個別銘柄の運命はさておき、日本経済全体が根底から揺すぶられることはなさそうという認識が大勢を占めつつあることを表わしているものと思われます。
 すなわち、一般の上場会社がバタバタと倒れるような混乱は起こらず、焦点は一部の問題企業(ゼネコン、不動産、金融保険など)の整理・再編がどうなるかと、そのことに伴う大手銀行の自己資本維持がどうなるかの二点に絞られてきたともいえます。
 とはいえ、それらの問題は経済全体にとって大きな爆弾であることには変わりがなく、それらの方向性がもっと見えてこなければ、直接関係のない銘柄といえども安穏と買い持ちできるような市場環境ではないことは確かです。

 このような状況の中、私はなすすべもなく日を過ごしています。というより、意識的にも手を休めて、とりあえず3月上旬が転機になるという想定を基本にして、現在は充電期間中と割り切っています。

 3月上旬転機説の根拠は、まず何よりもその頃までには、上記の大きな焦点についてなんらかの方向性が見えてくるだろうということです。まさか夏休みの宿題みたいに、期末ぎりぎりまで問題が先延ばしされることはないはずです。
 次に、楽観的に考えれば、もし日経平均が大きく下落することなく3月に至れば、2月6日の安値が昨年9月につぐ二番底だったのではないかという見方が台頭してくるものと思われます。金融問題を抜きにする一般の景況感もその見方を支援するはずです。
 最後に、需給関係の改善は、持ち合い解消売りなどが一服する3月後半からというのが一般的な考え方ですが、本当に強い底打ち相場なら、その時期に先行して上昇が始まるはずです。(昨年の相場反転は3月後半でしたが、大勢的な反騰相場となった93年や99年の上昇は3月第1週に起こっています)

 ただし、以上の想定は、あくまでも楽観シナリオであり、日経平均がそれまでに大きく下落した場合は成立しません。私は多分ないと思いますが、問題解決のあり方次第では2月6日の安値が安値ではなかったという事態が起こる可能性もないとはいえません。
 したがって、一般の銘柄は多分今が買い場とは考えるものの、買いの実行はまだ先延ばしすべきと考えるのです。
 それに、もし楽観シナリオが現実化した場合は、多少出遅れても、全然気にすることがないほど収益獲得のチャンスはずっと続くはずですから、焦る必要もありません。

 以上が私の基本スタンスですが、もし顧客が「いま買いたい」と判断するのなら、その考えに反対する気持は全然ありません。
 銘柄を聞かれれば、ポピュラーな銘柄としては日立キャピタル(8586旧社名日立クレジット)を勧めることにしています。金融関連の中では、不安の余地がきわめて小さい銘柄であり、1株株主資本1710円、1株利益100円で、1600円台の時価は、買い得と考えます。


第142回 日本経済の値段<2/13>

 昨日、ある同業者と話しましたが、とんでもないことを言っていると私は感じました。
 彼に言わせると、ペイオフで混乱が起きる可能性があるが、それはまだいいとして、本当に怖いのは、その後に起きる日本の通貨暴落とインフレだというのです。
 デフレがインフレにすぐ変わるのかと質問すると、すぐにではないが、1年半から2年後には不況とインフレの深刻な組み合わせがやってくるという返事でした。

 悲観には様々な根拠があります。しかし、火事と水害が相次いでやってくるような総花的な悲観論には陥りたくないものです。
 日本経済の停滞の原因は何か? バブル崩壊によるバランスシートの悪化(不良債権)が目下のセンセーショナルな問題であるにしろ、それは一つの結果であり、すべての原因は、戦後の日本経済が宿命的に立ち至った供給過剰体質にあることは確かです。
 日本経済が一貫して目指した生産拡大とシェア拡大は、日本を世界の債権大国にし、獲得した巨大なマネーのはけ口は国内需要の拡大では追いつかず、土地と株のバブルにより自己崩壊するしかなかったといえます。
 それから12年、バランスシートが悪化しても、もし需要と供給が一致すれば、経済はそこそこの活力を持つはずですが、いまだに世界の中で主要なモノ作り基地の実力を備えており、相変わらず供給過剰体質にあることこそが現在の本質的な問題なのではないでしょうか。

 経済が悪化すれば、ロシアやアルゼンチンの危機が頭をよぎり、壮絶な通貨暴落と失業とインフレの並存する悲劇的な状況が想起されます。
 しかし、日本の場合、いまだモノ作りの設備と人員は健在です。交易条件が好転すれば、また巨額の黒字を稼ぎ出し、世界経済を圧迫することは疑いありません。
 遠い将来には、日本経済が老齢化し、貿易赤字国に転落していくこともあるのでしょうが、少なくとも彼の言うような近い将来ではないはずです。

 日本経済はなまじっかにまだ若く、粘る体力があり、だからこそ、劇的な生まれ変わりや問題解決が進まず、調整がやたら長引いています。
 しかし、人為的な経済操作があろうがなかろうが、供給過剰は必ずや訂正され、均衡を取り戻すというのが資本主義の根本原理です。
 私は、日本経済の全体はいざしらず、個別業種のかなりの部分で、需要と供給は均衡を取り戻しつつあると考えます。(合同製鉄の主力分野である棒鋼業界は、需給の一致が見えてきた典型例だと思います)

 金融の面から見れば、銀行が軒並み債務超過の怖れもあり、まるで二束三文の価値しかないように見える日本経済ですが、金融の背景にある一般産業で見れば、みんなで馬鹿にしているほど弱体化しているわけではないと私は考えます。
 いま、前場が終わり、日経平均はなんと9999円です。1万円が絶望的な壁にも思える状況の中で、4日続騰になっていることは、日本経済にまだ十分なほど残っている潜在力(産業の力)を評価しているものと、私は素直に考えています。 


第141回 株の価値観<2/7>

 米国株の終値が軟調だったことに加え夜間取引も急落気味で、懸念された今日の東京市場ですが、思いがけず強い反発相場となっています。月曜日に著名な佐々木英信氏の講演会があり、「水曜日までに反発できなければ調整が長引きそう」という意見で、私もそのような気がしていたのですが、株はつくづく分からないものです。

 そもそも妥当な株価というものはあるものでしょうか?
 日本を代表するような重量級の株価まで、つるべ落としに下落するのを眼のあたりにすると、株価に合理的な根拠なんかあるのかという気にさえなります。
 昨年11月に「危ない会社」の特集を組み、合同製鉄をワースト16位にランクした同じ雑誌が、今度は「正しい株価」という特集で、合同製鉄の適正株価を298円にしていることが示す通り、株の価値を算定することは難しいことです。

 今日の朝のTVで、今の米国市場の調整は、投資家が銘柄ごとの「内在価値」を慎重に瀬踏みしているためであって、健全な現象だというコメントがありました。
 私も基本的にその意見に賛成です。ただし、言葉として「内在価値」というのは適当な表現ではないと考えます。「内在」などというと、まるで発行企業の将来の運命がすでに決まっていて株券の中に含まれてでもいるような、運命論的なものを感じてしまうからです。
 卑近な喩えですが、株券を馬券に喩えれば、当たり馬券かはずれ馬券かは、あくまで馬が走ってみて初めて決定されるはずです。購入した時点での価値は、他人から見れば千円は千円ですが、買う本人にとっては千円より価値があると思うから買うはずです。価値を決めるのはあくまで本人であり、それを最初から「内在価値」が決定されていると考えるのはどんなものでしょうか。

 具体的な銘柄でいえば、たとえば「みずほ」株の価値は「内在」しているのではなく、これからの実体経済の推移の仕方により大きく変わります。下はゼロから上は少なくとも50万円位までは考えられるはずです。
 今後どうなるかはだれにも分かりませんが、馬券なみにゼロになる確率と、減資で損する確率と、うまく生き残る確率など、考えられる限りの確率とその場合の損益を足し合わせたものが「期待損益」であり、各ケースの損益が生じる確率とリスクプレミアムをどう考えるかによって、その投資家にとっての投資価値が決まります。

 こう書いたところで、とうとう銀行株にストップ高する銘柄が出てきました。
 ストップ高したからと言って、本来は企業の本質的な価値になんの変化も生じないはずですが、現在のような局面では、株価が上がれば、投資家の「期待損益」の判断に心理的に大きな影響を及ぼす他、銀行株高による一般株価の上昇が銀行の財務内容に直接の好材料となります。
 今日は、その意味で株価の転換点になる可能性があります。もちろん、今日の上げは短期資金が中心と見られ、まだまだ本格的な転換と決めてかかることはできませんが、日本株の水準が相当に安いところに到達していることだけは示していると私は考えます。
 ちなみに、サミー(6426)もストップ高になりました。このところ、注目していたマザーズのリアルビジョン(6786)もストップ高になり、嬉しいやら悔しいやらです。

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