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第290回 ニチメン日商について<6/7>

 私の注目株であるニチメン日商が、再生機構送りの可能性が高まったと報じられ、500円を前後しています。
 すでに顧客の持ち株については何度となく検討し、下ぶれリスクに耐えられる状態になっていると認識していますので、今日は特に忙しくはしていません。むしろ、予想外にしっかりしているのではないかと顧客と話し合っています。
 
 UFJが不良債権を大幅に減らすために、ダイエーに次ぐ大口融資先であるニチメン日商(双日)について、至急にシロクロの結論を出そうとするのはやむをえません。そしてもしシロ(正常債権)であることを証明でなければ、クロと認めたうえで、なんらかの抜本処理をしなければならない立場に追い込まれていることも明白です。
 伝えられたところでは、UFJが自行での処理を断念し再生機構送りを考え始めた理由として、双日のような総合商社の場合、明確な資産価値の立証が難しく、欧州系の証券会社に資産の再査定を依頼することを検討したものの、短期的には不良債権の判定を覆すには至らないと判断したことがあったそうです。

 そもそも、双日に対する債権が厳しい評価を受ける根拠は、考えられる限りで次の3項目です。
 @借金が大。
 A前期も赤字。
 B含み損の処理が十分ではない可能性がある。
 このうち、@は下表に示す通り、同業比較では特に過大ではなく、商社という業態を考慮せずに単に2兆円という金額だけを問題にするのはまさに問題外の論議です。
 Aについても、営業利益や経常利益の段階で比較した場合、同業他社に比べて劣っているわけでなく、収益力を問題にするのもやはり問題外の論議です。
 したがって、真に問題になるのはBの資産評価に尽きるといっても過言ではなく、UFJの発言力や当事者能力が極端に低下しているいま、いっそ産業再生機構に移管されたほうが問題解決の早道で、株価的にもプラスとさえ考えられます。

 商事、物産、住友を除く総合商社の経営内容は以下の通りです。

 上表に示す通り、負債や収益力では、規模対比で特に双日が劣っているとはいえません。またこれらの数字は、仮に双日に新たなる含み損の処理による損失が発生しても、好転こそすれ悪化することはありません。
 新たなる損失処理が発生した場合に悪化するのは、最後の株主資本比率です。仮に、再生機構の扱いとなった場合、資産の査定が保守的に厳格に行われるので、三井鉱山やカネボウのように追加損失の発生は避けられないでしょう。
 その場合、もし500億円程度なら、普通株の株主資本の範囲内であり、ほとんど問題がないと考えられます。また、3000億円以内なら、優先株を含めた株主資本は債務超過にならず、株主責任は深刻な問題にならないと考えられます。資本増強のため、現在の普通株の持分が希薄化することは避けられませんが、現在の1株あたりの収益力(上表に発行株数を書いていませんが、ニチメン日商の2億株強に対して、丸紅は15億株、トーメンでさえ8億株です)を考えた場合、希薄化によるマイナスより、むしろ財務に安心感が定着するプラスのほうが株価に大きく影響するでしょう。
 3月末現在の資産で、評価損が大きく発生する可能性がある資産は、棚卸資産2395億円、有形固定資産4932億円、投資有価証券4105億円などであり、よほどでない限り、3000億円を超えることはないと私は考えます。

 以上のような考えから、ニチメン日商が再生機構送りになった場合、少なくとも長期的な株価にとってよい結果になる可能性が高いと判断しています。


第289回 再生銘柄<6/1>

 マイカル、新潟鉄工など株式市場から消え去った銘柄と、同じような経営難を切り抜け、生き残っている銘柄との差はなんでしょうか? 本質的な要因ももちろん様々あるのでしょうが、「運」とか「はずみ」とか偶然性も大きく働いています。
 たとえば、再生期待で人気化しているカネボウは、帳簿上で債務超過ですから、本来は100%減資を申し渡されても文句がいえません。もちろん、再生機構が100%減資を選ばない大義名分として、化粧品部門の将来の収益価値(ノレン代)を考慮すれば債務超過ではないという判断があるはずですが、それならば、ノレン代どころか繰延税金資産さえ認められなかったあしぎんFなど、今後の収益力に自信があった企業の元株主は、なぜ自分のところは将来価値を考慮してくれなかったのだと悔しい思いをしているはずです。ましてや、同じく再生機構銘柄で特に大きな収益力もない三井鉱山でさえ、銀行の債務免除益で100%減資を免れて生き残っているのですから、それならば、なぜおれのところは救わなかったのだと憤っている元株主は多いはずです。
 とはいえ、90年代以降、かなりの数の銘柄が姿を消す中で、国や銀行の資金注入で生き残った銘柄の多くは、客観的に見て生き残ることに社会的意義があったと私は思います。
 たとえばダイエーは、潰すには大き過ぎるという消極的な意見の他に、ヨーカ堂、イオンというあまりにも強い流通グループに対して第3極が育ってもよいという見方が成立します。米国も第3位の自動車メーカーの危機は国を挙げて救済しました。
 本来つぶれてもおかしくはなかった銘柄のうち、一定程度が「再生銘柄」として生き残りつつあることに、問題先送りを感じている人も多いはずですが、後世の歴史的な評価はおそらくネガティブなものにはならないと私は考えます。

 前回、再生銘柄の一つである長谷工にちょっと触れましたところ、1株利益7円と考えるのはひどすぎるという意見を頂戴しました。私は、長谷工が割高だと申し上げたわけではありませんので、誤解がありましたら訂正します。長谷工は、公共投資に頼るその他大勢のゼネコンではなく、民間の集合住宅分野に特化した建設会社なので、生き残る社会的意義も資本主義的意義も十分にあると考えています。

 長谷工に限らず、再生銘柄の妥当株価の算定はきわめて困難です。
 困難の第一は、ほとんどの場合、非常時の資本維持策として優先株を大量に発行しているので、実質的な持分割合が不透明ということです。
 第二に、利益目標を大幅に上回っている長谷工の場合はあてはまりませんが、ダイエーをはじめ多くの再生銘柄が再建計画にもとづく利益目標の達成にきゅうきゅうとしており、会社が発表する予想収益が背伸びをしている場合もありえることです。
 第三に、多くの銘柄が過去の負の資産が経営悪化の理由になっているわけですが、その資産の洗い直しが十分に進んでいるのか不安があるということです。

 たとえば、上記の要件を私の注目銘柄であるニチメン日商で考えた場合、次のようになります。
 @優先株からの希薄化は最大6分の1程度。
 A今期の経常利益予想500億円は目標数字として考えておく必要がある。
 BUFJとの関係で、まだ処理できない含み損がある可能性を考慮する必要がある。
 このような条件の中で、妥当株価を算出するのは不可能に近いといえます。
 ではなぜニチメン日商を割安と考えるかといえば、次の通りです。

 まず第1に、優先株の転換期限から見て、収益が順調なら希薄化懸念は比較的に小さい。仮に悲観的に3分の1に希薄化すると考えても、今期の予想1株利益は80円弱であり、PERはなおも低い。
 第2に、合併両社の過去の収益実績から丸紅並みの経常利益は期待でき、したがって経常利益500億円は達成可能な水準と判断される。
 第3に、UFJ問題の経過を考えると、資産の評価替えによりさらに損失が発生することは覚悟しておいたほうがよいかもしれない。ただし、資産の評価替えによる損失は、キャッシュフローの流出ではないので、資本が最低限維持されれば、一過性の問題と考えることも可能。大まかに、現在の株主資本3000億円から考えて1000億円以内なら許容範囲(ケースA)、1000〜2000億円ならUFJ等の銀行団で資本強化が可能(ケースB)、2000億円超で再生機構への支援要請(ケースC)になると判断する。
 以上を総合して、第3項のケースAなら、第1項と第2項から超割安、ケースBなら第1項の希薄化懸念が現実化するがなおも割安、ケースCなら再生機構の考え方次第だが、カネボウや三井鉱山などとの比較からは、旧日商岩井の株主にとって額面50円に相当する現在の株価で500円が、さらに巨額の損失が発生した場合に株主責任を負う一応の目安と考えられます。(旧ニチメンの株主にとっては迷惑な話です)

 以上のような考えから、再生銘柄の中でも特にニチメン日商を割安と考えていますが、UFJ問題が落ち着くまでは、不安感からある程度の下ブレもあると覚悟しています。


第288回 市場平均PER18倍<5/26>

 今朝の日経新聞株式欄の予想PERが、225銘柄平均で17倍台、東証一部平均で18倍台に下がりました。この数字は、企業の発表する予想利益を単純に集計したものですから、一昨日の決算発表により、りそななど一部銀行の巨額の赤字が消え、今期の黒字予想を反映した当然の結果です。しかし、日本株の平均PERが、去年の4月のように大幅な株価下落によってではなく、企業業績の向上で欧米なみの18倍程度に下落したことに感慨を感じざるをえません。
 バブル前の80年代前半から、日本株はつねに欧米に比べて驚くほどPERが高く、その面からの安心感がありませんでした。ときどき人気のない銘柄が20倍に近づくと「超割安、下値安心」とはやされたほどなので、日本株を買う場合は(電力やガス株でさえ!)、新興市場の成長期待株を買うのと同質の保有リスクがつねにつきまとっていたといえます。(低PER株を買ってその会社が減益になるのもリスクですが、高PER株を買ってはじごをはずされるのは、もっとひどいリスクです)
 PER水準から見て、現在の日本株の水準にこれまでになく基本的な安心感が生じていることは確かです。ただし、安心感があるからといって、株価は上がるものではありません。昨日の相場が極端な買い見送りになった理由は、不安感のためではなく、むしろどきどきするような不安感がなくなったために、不安感に対抗する形で存在していた投資家の期待感(特に銀行の決算発表後の相場に期待していた個人投資家の熱い思い)が一時的に冷え切ったからに他なりません。

 米国ではかつて市場平均PERが10倍に近づくと買いで、20倍に近づくと売りという常識がありました。いまはそのように硬直的な考えをする人は少ないと思いますが、それでも市場平均PERが20倍を大きく上回ることには多くの投資家が抵抗を感じるはずです。PER20倍を超えるということは、その逆数の株式益利回りが5%以下になるということであり、長期金利の歴史的な水準との比較で、よほど企業業績の先行きにバラ色の期待を抱かない限り、投資に成算を持つことが難しいからです。米国の企業業績については、90年代のようにドラスティックな底上げは近い将来にはありえないというのが一般的な考え方でしょう。
 その点、日本株の場合は、今期はともかく来期以降の企業業績については大きく意見が分かれるところで、その分、バリュエーションで強弱が大きく対立する余地があります。日本の企業業績は、今期も大幅に上伸することがほぼ確実です。問題はその先で、米国の90年代のように構造的な飛躍に発展するのか、それとも来年は景気とともに息切れするのか、大きく意見が分かれます。しかし、現状では、大多数の投資家の内心は、日本の景気はしょせん米国と中国頼みであり、企業業績の回復がそれほど長く強く続くはずがないというあきらめに支配されているのではないでしょうか。
 したがって、私の見るところでは、当面の日本の株式市場は、安心感がこれまでにもなく高まっているにもかかわらず、米国と同様に市場平均PER20倍が近寄りがたい上値の壁として立ちはだかり、個別株においても業種ごとのPER水準を強く意識したうえで株価が形成される傾向が強まっていくのではないかと考えます。
 今日の前場は日経平均250円高と急反発ですが、銀行はさえず、ハイテク株にも躍動感がありません。比較強ばっているのは、会社予想から増額修正余地が高い鉄鋼、会社予想でもPERが低い海運など、やはり市場参加者にPERに対する意識が強く浸透しているように思えるのは私のひが目でしょうか?

 ところで、昨日1株利益前期50円、今期54円の決算を発表した長谷工が、寄り付き20円高と買われました。一部の評論家がPER割安と勧めていますが、私は必ずしもそうは思いません。
 いわゆる再生銘柄の場合、多額の優先株が発行されているので、妥当PERの目安をつけることは非常に困難です。
 長谷工の場合、決算短信に明記されている通り、「潜在株式調整後」の1株利益は約7円です。つまり、優先株が全部普通株に転換された場合、総発行済み株数は現在の7倍に増加するので、その事態を想定した場合、1株利益は7分の1に希薄化するということに他なりません。
 希薄化の可能性を考えるうえで大切な問題は、株主資本の内容です。長谷工の場合、全体の株主資本は445億円ですが、普通株だけで見た場合、1株あたり310円の債務超過です。普通株資本がマイナスである限り、復配ができないのはいうまでもなく、なによりの懸念は、優先株を現金で償還することができず、希薄化が現実化していくことです。
 長谷工の優先株がどうのような形で償却されるかは、銀行の考え方によって大きく変わると思われ、1株あたりの投資価値の判断はきわめて困難です。
  
 念のため書き添えれば、同じ優先株による再生銘柄でも、債務放棄を受けていないニチメン日商やオリコでは事情がだいぶ異なります。ニチメン日商の場合、普通株だけでも株主資本は債務超過を免れており、今後の期間利益をただちに優先株の現金償還に振り向けることも可能です。現在の優先株が全部普通株に転換されれば、私の計算では1株利益が6分の1くらいに希薄化しますが、転換の期限は平均で10数年後、早いもので7年後なので、その全部を期間利益で償却することも十分に可能です。
 たまたま、これを書いているときに、ニチメン日商が急落、70円安です。UFJ関連の中でも目立って売られており、また悪材料が出たかと疑いたくなりますが、おそらく心理的なものだろうという判断で臨んでいます。
 資産の評価が会社発表の通りなら、いずれこの銘柄の妥当PERはどのくらいの水準かということが株価形成の争点に移行するはずだと考え、腹をくくっています。


第287回 時を感じる日々<5/19>

 株価はつねに揺れ動いているものの、案外につまらないことで上げ下げし、こんな馬鹿げたことで顧客と一緒に右往左往し、血眼になっている自分の仕事は、社会的・経済的にどんな意味があるのだろうかと疑問に思ってしまうことが多々あります。
 古いところでは、80年の仕手株一色相場や88〜89年の大手証券演出によるシナリオ相場(「ウォーターフロント」他)、比較的新しいところでは、99年暮れのソニーなど国際優良株が毎日のようにストップ高したときや、2000年からの下落相場で日経平均リンク債のノックアウトに脅えて売りが売りを呼んだときなどがそうです。共通することは、たとえば80年の場合は、ニセマルキまで含めて、マルキかどうか(当時の仕手筋の機関店から注文が出ているかどうか)、88年の場合は東京湾岸に工場があるかどうかがほとんど唯一の銘柄選別の鍵であったように、実体経済とはあまり関係がないことで市場全体が血眼になって大騒ぎしたことです。
 その一方で、株価がよくも悪くも経済と一心同体のものであることを痛切に思い知らされ、時代の中に生きていることをびりびりするほど肌身に感じて過ごした日々もあります。
 古いところでは、82年の夏がそうです。中南米向け融資の不良債権化で米国の銀行経営が揺らぎ、世界的な金融パニックの発生が深刻に懸念されました。私が夏休みを取ったときが最悪で、顧客の資産も私の心もずたずたで、帰省する汽車の中で、もう東京には戻らないかもしれないと考えたほどでした。そして、3日目、同僚から「NYが大暴騰!」という電話をもらった朝のことは色つきの映画の一場面のように思い出します。
 米国株はその日(8月17日)に劇的な転機を迎え、喜び勇んで東京に戻った私でしたが、日本株の反応ははかばかしくありませんでした。それから1ヵ月半も低迷し、底打ちは10月初めでした。東京市場にいきなり激烈な外人買いが殺到し、以後バブルにつながる長期上昇相場が始まったのは、忘れもしない10月8日です。

 回顧談みたいなことを書いたのは、現在の相場が、日本経済の歴史的な転回を踏まえたものであることをますます強く思うに至ったからです。
 随分前に書いたことですが、時代の大きな変化は徐々に顕在化することが多く、そのときそのとき短く見れば、なんだ結局変わらないじゃないかと思えることが普通です。例えば、何年か続いた幕末の混乱期に、すぐ後にまったく新しい時代が到来することを予想していた人はごく少数で、倒幕の志士でさえ大半はどうせ変わらないと半分あきらめていたのじゃないでしょうか。

 昨年4月の大底打ち以来、市場参加者が揃って強気になるたびに反落場面に襲われています。特に今回は4月には国内が総強気の様相を呈していただけに、反落のダメージはこれまでにもなく強いものでした。
 ある外務員は、つい10日前まで「大相場の本番がいよいよ始まる」と毎日がなり立てていたのに、ここにきて「兜町中が追証で、もうだめだ」と弱気転換してしまいました。そこまで感情的でなくても、1年にわたる上昇相場に変化が生じたと考える人は相当数います。その代表が、過剰流動性を背景にした金融相場が終わって、これからは優良企業を中心にした業績相場というもっともらしい説明です。この考えは、昨年の10月の反落後も日経金融新聞などで、まるで必然であるかのように述べられていました。

 金融相場と業績相場という用語は、金融相場が業績無視の相場で、業績相場が業績重視の相場という誤解(実際はむしろ逆)を生みやすいので簡単に使うべきではないと考えます。ましてや、異常な金利水準にある日本の現状ではほとんど無意味に近いと考え、私は現在の相場を「実体経済回復期の相場」というふうに定義したいと思っています。業績相場に対応するのは「実体経済好調期の相場」ですが、そのような状況が日本に到来するのはまだ先と考えるのが普通でしょう。

 回復期の相場(金融相場)の特徴は、ある程度のリバウンドが終わった後は、平均株価の上昇率が鈍く、しばしば強い反落を伴いやすいということです。投資家の心底に長い下降相場の苦しい記憶がトラウマのように存在し、かつ実体経済はまだ完全に明るいとはいえない状況の中で、株価が疑心暗鬼に揺れ動くことは当然です。
 今回は、アジア経済の好調に警戒感が高まった矢先、頼りの外国人が売り越しになり、UFJの赤字報道で終わりかけていたはずの不良債権問題が生々しく蘇ったのですから、売りが売りを呼ぶ展開になったのも仕方がありません。
 幕末に喩えれば、志士にとっては頼りの長州藩が禁門の変で破れ、長州征伐の軍を起こされたようなものですから、新しい時代が来ると思ったけど何も変わらなかったじゃないかと、投資家がお先真っ暗な気持になるのもやむをえません。
 大切なことは、日本経済が新しい局面に入るかどうかを決めてかかることではなく、どういう未来が待っているのであれ、歴史は動いているのであり、株価は目先的にどんな行きつ戻りつがあろうと、本質的には実体経済と一心同体で動いていることを忘れないことです。
 私は決めつけるわけではありませんが、日本経済が徐々に転回しているという想定を基本にすべき局面と判断しますので、その判断を旗印に掲げて、この日々になるべく悔いのない行動をしていきたいと考えています。


第286回 どう対処すべきか?<5/12>

 大多数の予想が一致するときは、その予想がはずれることをまず考えなければいけないと、またしても思い知らされました。調整局面入りは6月ではないかというのが大方の意見であり、私も、5月後半に鉄鋼や銀行、海運などもっとも業績変化率の高い銘柄群の決算発表があるので、少なくともその発表前後までは相場が崩れることはないだろうと楽観していました。
 昨日に続いて今日は一段と下げ止まり感が出ているものの、全体相場が少なくとも昨年7月および10月に匹敵する規模の調整局面に入ったことは認めざるをえません。その類推から、1か月程度の調整継続が予想されますが、これも多くの人の見解が一致するので、疑ってみる必要があります。
 よいほうに予想がはずれるとすれば、相場は思いもかけぬほど短期に出直ることになります。悪いほうにはずれるとすれば、泥沼の下落が長く続くことになります。
 目下は、ちょうど1年にわたる上昇でせっかく回復した資産を守ることを第一義と考え、悲観的なケースも想定した上で、静観(あるいはあいまい)を基本としていますが、そろそろメリハリのある選択をしなければならないと考えます。
 ある程度の買い余力があるということを前提に、当面の対応の仕方について考えてみたいと思います。

 まず今回の下げで険悪な点は、ファンダメンタルそのものの問題ではなく、また国内の問題でもなく、国際的な資金の流れが大きく変化した可能性があるということです。
 米国を中心とする過剰流動性相場が終わって、歯車が逆転し始めたのだと言われると、背筋に冷たいものが走ります。
 次に、今回の下げに救いがあるとすれば、第一に、相場下落がなよなよしたものではなく、実に急速で苛烈なものだったことです。例えば、半年間23万円を挟んで上下10%も動かなかった超大型株のNTTドコモが、1昨日は14%も急落しました。おそらく、ヘッジファンドを中心に海外投資家がドライに大口の売りを出す中、国内機関投資家は一斉に手控え、ダイナミックな下げになったものと思われます。
 救いの第二は、90年以降の急落局面ではもっとも主力株に業績の裏付けがあることです。例えば、上記のNTTドコモは営業減益とはいえ1株利益15,400円の予想であり、予想PERは19万円で12.6倍とこれまでの万年割高が嘘のような水準です。日経が集計する第一部市場の平均PERは、内需関連の決算発表を前に、すでに23倍に低下しており、実質的には20倍程度と昨年大底時に次ぐ水準です。

 ここで考えなければいけないのは、仮に海外投資家の売りがまだ続くとして、それがマネーの世界だけに止まらず、日本のバブル崩壊や米国のネットバブル崩壊のように、マネーと実体経済が一緒になって坂道を転げ落ちるのかということです。
 もしそうなら、いま見えている利益に対していくら低PERだといっても、下値の目安には全然なりません。
 詳述する余裕がありませんが、私は今回仮に国際資金の流れに変化が起こっているにしても、実体経済に険悪な影響を与えるものではないと考えます。国際的なマネーの流動性に抜本的な変化が起こったわけではなく、あくまで局所的で一時的な資金のブレに過ぎないと考えます。
 この点で、もし顧客の意見が同じなら、その顧客の運用については、上記の悲観ケース(武者氏や水野氏の予想する泥沼の下落)を省いて考えることができます。(もちろん、株をやる異常は、万一の場合も最低限覚悟したうえでのことです)
 そして、もし泥沼の下落がないと割り切った場合、現在の市場はまったく違った光景に見えてきます。上にドコモの例を上げましたが、ドコモでさえも魅力的かもしれないと思えるほどですから、これまでは魅力的でなかった主力株のほとんどが光彩を放って見え始めます。
 午後に入り、日経平均は140円高。相場がこのまま反発するのか、それともギクシャクとした不安な局面がまだ続くのか、その迷いはあまり重要でないものに見えてきます。また、大型を買うか小型を買うか、内需を買うかハイテクを買うかなどの迷いも現時点ではあまり重要ではないと思えてきます。
 つまり、結論は、資金の余裕があれば、まず買うことを考えたいというのが私の意見です。


第285回 顧客との様々な関係<5/6>

 今日は久々の立会いですが、連休のはざまなので、相場の躍動は期待できそうもありません。
 中国関連で鉄鋼株などが大幅安しているものの、4月中の大幅高を考えれば、驚くに値しない反落だと思います。(後記、終わってみれば主力株軒並み大幅安ですが、驚くに値しないという見解を継続します)
 今朝たまたま、コーナン商事の株式とCBで、相反する売買をしてしまいましたので、そのことについて書きます。

 私の顧客のも、当然ながら、いろいろな方がいらっしゃいます。私の提案に対してほぼつねにYESと返事される方がいらっしゃる一方、私の意見とはまったく関係なくご自身の判断で運用なさっている方もいらっしゃいます。(後者の場合、ネット取引より格段に高い手数料をいただくことに恐縮してしまいます)
 また、その顧客がリスクをどのくらい許容するかで、おのずから運用のパターンは大きく変わります。信用取引を使って思いきりレバレッジをかけたがる方がいらっしゃる一方、安全第一で既発CB中心の運用を好まれる方もいらっしゃいます。
 コーナン商事については、たまたま既発CBで手頃なものが発行されており、株式で買っていただいている方と、CBで買っていただいている方と両方いらっしゃいます。(私の好きな銘柄では、三益半導体などもそうです)
 今日は、コーナンの株を勧める一方で、別の顧客では泣く泣くCBの売り注文を出さざるをえなくなりました。
というのも、やや話が込み入りますが、このCBにはコールオプションの特約があり、明日7日まで転換価格を株価が30%以上上回り続けると、途中償還になるため、株に転換せざるをえなくなることが判明したからです。もちろん、顧客が希望すれば、株に転換して含み益を抱えたまま上値をさらに追うことも可能ですが、この顧客の場合、基本的に株は持たずに、元本を確かめながら、株式に準ずる資金運用をしたいというニーズなのです。
 株を持たずに株式並みの値上がり益を狙うのは欲張りのようですが、既発CBをうまく使えば大いに可能です。今日売却したコーナンのCBは、株価が1800円くらいのときに108.5円で買い付けたもので、今朝株価が2380円くらいのときに141円で売却しました。手数料引きの収益率は28%で、もし株に投資していたら30%の収益率ですから、ほとんど遜色がありません。
 一般的にいって、額面の100円をそう大きくは上回っていなくて、かつ株式としての理論価値と時価がそれほどは乖離していない銘柄は、リスクが比較的小さくてしかも大きなリターンを狙えます。
 この顧客の場合、二十年前から、CB中心の運用をしており、相場下落時の悪化が限定的なため、長期的な資産のパフォーマンスは株式の顧客平均より上です。
 ただし、残念なことに、最近はCBの発行が激減しており、運用に手頃なCBを見つけにくくなっているのが目下の悩みです。

 ところで、コーナンは今日も一時年初来の高値をつけるなど、強含みのもみ合いが続いていますが、来週の株価は要注目です。
 明日も堅調で、コール条項が成立すると、未転換の推定80億円のCBが原則的にすべて転換されるはずで、それによる増加株数は480万株で、総発行株数が一挙25%も増加することになります。
 もし投資魅力がない銘柄なら、需給関係の悪化はただちに株価下落につながります。ところがこの銘柄の場合、前に書きました通り、PERはCBによる希薄化を考慮しても13倍くらいと低く、かつ懸案だった株主資本比率は大幅に改善されます。また、関東圏への進出が本格化しており、連休中の日経にも、市川に豊田通商とタイアップして、店舗への投資負担を伴わずに超大型の出店が可能になったと報じられています。
 いずれにせよ、コーナン商事の投資魅力が問われることは疑いありません。

 今日は、ニチメン日商が37円安の621円。ダイエーの44円安よりはましなものの、再び不安が募る局面となりました。来週13日の決算発表は、あくまで合併前の損益発表なので、焦点の日商岩井の含み損について直接の判断材料が出るかどうか流動的ですが、私見では、減損会計の完全実施を前にして、今期の最終利益予想についてのアナウンスメントは大いに注目できると考えます。もし最終黒字予想が出るなら、未処理の含み損は大きな金額ではないと考えられるからです。
 ニチメン日商をコア、コーナンを準コアと考え、その他従来からの日軽金、日本電波、三益半導体、MARUWAなどに加え、直近ではKDDI、田村大興電機などに強気しています。


第284回 株価形成の無常と不変性<4/28>

 まず無常から。
 最近、大幅分割株の異常人気が目立っています。
 火をつけたのが、昨年12月末から新年にかけての、ライブドアの100分割の権利落ち後新株が出回るまでの、品薄時の猛烈高だったことは明らかです。
 あれ以来、従来はレナウンルックや井筒屋みたいないわゆる仕手株を選好していたタイプの投資家まで参入してきて、鉄火場の雰囲気が漂ってきました。
 外務員の中にも、分割をする会社は伸びる会社だ、だから騰って当然という論理でやみくもに買いを入れている人がいますが、分割するから企業が伸びるのではなく、企業が伸びて1株利益が上昇し株価が高くなったから分割をするのが本来の姿であることはいうまでもありません。その点で、ヤフーやかつてのセブンイレブンなどは、ほぼ理想的な形で分割を実施しており、投資家に幸せをもたらしました。

 そもそも、去年、ライブドアの経営者がなぜ1対100の分割を決めたのか、奇異に感じられます。わずか数千円の投資で株主になれることは、普通の投資家にとってそれほど便利なこととは思えません。むしろ、単元株の金額があまりにも小さいことは、発行会社にとっても普通の投資家にとってもデメリットが大きいはずです。 加えて、最近、分割で人気化している銘柄の中には、たかだか学習塾でそんなに伸びるのかと成長性に疑問を感じる銘柄や、目下異常人気になっているドリームテクノ(4840HC)のように企業基盤そのものに不安を感じる銘柄も少なくありません。もちろん、それらの銘柄が絶対に伸びないと断言するつもりは全然ありませんが、客観的に見て、分割の必然性に欠ける銘柄が、本来的な分割を実施する企業の中におそらく意図的に紛れ込んでおり、玉石混交の観を呈していることは疑いありません。

 このようなことを書くのはやっかみからではありません。実は、顧客に保有してもらっている株の中で、最悪のパフォーマンスだったアライドテレシスが1対10の株式分割を発表し、今日で3日連続ストップ高となってしまい、面食らっているのです。
 上がったことを素直に喜べばいいのかもしれませんが、嬉しいものの、腑に落ちません。経済的価値にはほとんど変わりがないはずの株式分割で、なんでそんなに株価が上がるのか納得できません。私はもちろんアライドテレシスというハイテク企業の成長性に大きな期待をかけており、ネットワーク不況を超えた後には必ずや収益の飛躍があると信じるものです。だから、株式分割の発表は一つのきっかけで、インターネット関連株としての本来的な魅力にようやくスポットが当たったのだよと思えばよいのかもしれませんが、大好きな企業であるからこそ、1株利益で少なくとも200円くらいが見えてきてから分割してほしかったと強く思うのです。
 とまれ、最近の大幅分割銘柄の仕手株みたいな動きを見ていると、つくづくに市場人気の移ろいの激しさ、気ままさ、とりとめのなさを感じます。鴨長明の行く川の流れではありませんが、日々移ろう株価の流れの底に万古不変の基準はあるのだろうかと無常観さえ感じてしまうのです。

 次に不変性について。
 株価は所詮人気や需給のちょっとした加減で揺れ動くものであり、我々の収益チャンスはだからこそ生じるわけです。
 もし株価の流れの底に、なんらかの不変性がないとすれば、我々は株価の揺れ動きの中で結果的に収益をえられたとしても、それは運がよかったからにすぎないことになります。つまり、株価や人気が所詮気ままな「ランダム・ウォーク」なら、我々はしかめつらしく理屈を並べても無意味で、ひいては外務員なんかに高い手数料を払ってもなんの意味もないことになります。
 しかし、ウォーレン・バフェットを例に出すまでもなく、身近な証券マンや顧客の中で見ても、長年の実績を比べて明らかに運用が上手な人と下手な人がいます。
 下手な人は、多くの場合、安定した信念がありません。株価の動きによって判断がころころ変わります。中には、当座は器用に立ち回って連戦連勝したり、逆に神がかり的な「信念」のもとに一時的に大成功をおさめる人もいますが、成功すればするほど、長い間には大失敗をしがちです。
 上手な人は、多くの場合、判断が安定しています。投資に対してその人なりの基準みたいなものがあって、売り買いの判断は臨機応変に変わるものの、少なくとも日々の株価の上げ下げに感情的に反応して変化するわけではないという点に、共通点があるように見受けられます。

 昨日の日経金融新聞に、先日ニチメン日商の筆頭株主になったと報じられたJPモルガンの資産運用会社が、その他にも5銘柄の大株主になったことが紹介されています。我田引水ですが、その中には日軽金も入っており、6銘柄すべてに私の銘柄選好と非常な共通性を感じました。その中の1つ、田村大興電機は、全然見てもいなかったのですが、非常な投資魅力を感じ、すぐに顧客に勧めました。本来なら、この欄でもお勧めしたかったのですが、今日あいにくと30円高となっていますので、お勧めは保留します。

 申し上げたいのは、外国の年金運用であろうと、市井の1外務員と同じ発想で銘柄を選ぶことがあるということに、意を強くしたことです。
 もちろん、ファンドによっては、ユシロやソトーのように、多少意味合いの違う銘柄選択をしたり、ネット関連など成長性重視の選択をしたりして、価値の物差しは様々であってよいわけですが、少なくとも、水は上から下に流れる、鉄は水に浮かないという形で、経済の根本では古今東西変わらない鉄則があり、人気やブームとは別に存在するはずです。

 日本株の株主構成は、いま劇的に変化しつつあります。私はその変化を前向きに受け止め、変化に対応したいと努力中ですが、その中でも変わらないものは変わらない、株は一時の人気だけで動くものではないという信念だけは、堅く持ち続けていきたいと考えています。


第283回 めくるめく日々<4/21>

 大型倒産か戦争でもない限り、何があっても驚かないつもりでしたが、UFJの不良債権1兆円積み増し報道には動揺させられました。しかし、もっと驚いたのは、その翌日の昨日、国際優良株だけではなく、広範囲に物色意欲が広がり、先週の急落以来漂っていた不透明感が嘘のような躍動的な相場展開になったことです。今日のサプライズは、東京製鉄の1株利益174円予想ですが、これは最近の原料・製品の価格動向からすればほんとうは意外ではないと思いますが、タイミングが絶好でした。
 常識的には、りそなの5億株に象徴されるような大活況銘柄がことごとく2割近くも急落した場合、急速な出直りは難しいはずで、私は結構強気のほうでしたが、それでも日経平均の1万2千円回復は5月になるかもしれないと覚悟しました。
 つくづくに今回の相場に流入する資金の質の多様性、すそ野の広さ、懐の深さを感じます。買われている銘柄を考えても、PERあり、PBRあり、成長期待あり、再生期待あり、配当利回りあり、単なる値頃買いあり、インデックス買いありで、まさに百家鳴争の感があります。

 さて、詠嘆している場合ではありません。相場は難しい局面に突入しました。
 現段階では、相場参加者のほとんどが基本的に強気と見なければなりません。よほど魅力のない銘柄でない限り、安値から見れば相当に買われています。ましてや信用買いの急増に示される通り、個人投資家を中心に行け行けどんどんの熱気が漂い始めています。
 普通なら、そのような条件が揃ったときは、眉につばして静観すべきでしょう。
 しかし、私は現段階では、それらの黄色信号を無視したいと思います。相場の質が客観的に見ても、史上まれに見るような大きなスケールを持っている可能性が高いと思われるとき、安全一方に傾けば、重大な機会損失になる恐れがあるからです。
 昭和40年の証券不況後、ソニーや大和ハウスが毎年何倍にも上昇したとき(私はそのときを実際に経験したわけではありません)、そんなに上がるのはおかしいと思った人は、高度成長の大きな波を認めようとせず、自分の殻に閉じこもったまま時代を空費してしまったのです。
 その後も、昭和49年のオイルショック後や、昭和55年の仕手株急落後や、昭和57年の米国の高金利政策転換後など、株価急落後の転換期には投資家はおおむね保守的な行動を選びがちでした。
 私は現在を日本経済の大転回期と考えていますので、高値をつかんで後悔することより、時代を空費することをもっと強く恐れます。

 もっとも、ただやたら株を買えばよいというものでもないはずです。ストップ高ならまず買うことを考える、大商いならとりあえず飛びついて日ばかりを狙う、という考え方で手数料を荒稼ぎしている外務員もいますが、そのような人たちの大半は時代の中で踊りを踊っているに過ぎません。私は、踊って騒ぎたいために株式投資をしているのではありません。株式投資の醍醐味は、自分自身の時代認識がどのくらい正しいのか、先行きに対する予想がどのくらいはずれるのかが、つねに問われ、結果が出ることにあると思います。今朝の日経で、数時間で数千万円を稼いだこともあるプロ顔負けのネット・トレーダーがいると紹介されていますが、その人が天才か単なるお調子者かはさておき、私が志しているのはそのような結果ではなく、むしろプロセスです。

 いま中山鋼が420円に達しました。売りだとは思いませんが、もはや買うわけにもいきません。日軽金はまだ300円以下ですが、電炉と違って急に劇的な業績予想を出せるとは思いませんので、大幅な業績向上を買う相場はまだ先の話だと考えています。
 先週、気が狂ったような強気が集中したりそなをはじめとする銀行には当面手を出したくありません。ハイテク主力は、バブルの後遺症やデフレと直接の関係が鳴く、現在が歴史的な買い場にあると考えるのには無理があり、投資のモチベーションに欠けます。

 それやこれやで、私が現在買いたいと思う銘柄はひどく限定されます。顧客によっては、それこそ主戦場から離れたピンボケ銘柄ばかりじゃないか、もっと時代性のある銘柄を出せと怒ります。しかし、私は、いまの相場は多面的だから、これでも結構、時代についていけますよ、MARUWAみたいな昼行灯みたいな株だって、あっという間に300円上がったじゃないですかといって言い逃れするのです。
 買いたいと思う銘柄は、従来から注目しているコーナン商事(7516)に加え、NECシステムテクノロジー(3717)と 大真空(6962大)です。
 コーナンは、ホームセンター業界にとって厳しい経営環境だった前2月期も増益を確保したように、申し分のない成長実績であり、かつ当面に強い不安はありません。なぜPER10倍(CBが全部転換してPER12倍)なのか不思議でなりません。何か落とし穴があるのかと不安になるほどですが、落とし穴の可能性は小さく、単に人気が不足しているためのようです。来週横浜に関東進出3店目がオープンし、そのあと都内へと続くので、投資家の認知度が高まると期待しています。
 NECシステムは、よく調べた銘柄ではないので、NECソフトとの役割分担がどうなっているかなど分かりませんが、四季報等で判断する限り、堅実な業務基盤と成長性を考えれば、前期推定PER26倍(今期は23倍前後)は目立って割安と考えます。
 大真空は、収益と純資産の両面から、今日1000円台まで上昇してきたスター精密の800円がらみと同じ形で比較的安全な投資が可能と考えています。


第282回 気持を大きく全体を眺めたい<4/14>

 先週末の下げで、しばらくは反省期間かと思いましたが、週明けからいきなりの買い気復活です。銀行株の上げっぷりにはものすごさが漂い、小型株の一部の一部にいたっては、イラク問題もなんのそので、買いが買いを呼ぶ毎日がずっと続いています。
 たとえば、テンポスバスターズ(JQ2751)は、昨日までの7営業日で2倍になりましたが、細かくいうと、3月23日からは15営業日も連続上昇しています。
 さすがに今日は、銀行も小型も一服ムードで始まりました。今回は、この押せ押せムードの相場現象をどう見るかについて考えてみたいと思います。

 一つの考えは、末期症状に近い行き過ぎ、すなわち「バブルに近い」とみなし、主力株を含めた全体相場の先行きに対してもネガティブに考える立場です。
 もう一つは、「まだまだバブルなもんか」と強気に受け止め、ハイテクなど一般の主力株には見向きもせず、ますます銀行と小型株に全力投球する立場です。
 さらにもう一つは、銀行や小型株がバブルかバブルでないかはさておき、そのエネルギーは相場の若さを示すものだと受け止め、全体相場の先行きに対してもポジティブに考える立場です。

 大きく分けてその3つの立場のうち、私自身は、どれにも魅力を感じます。私の中では、その3つの考え方がごちゃごちゃに混じり合っており、まるで3つの考え方は矛盾するものではないかのようです。言い訳になりますが、今回の相場は、前回述べたように「ニシンとカツオの大群が一緒にやってきたような」混然とした雰囲気をはらんでおり、1つの考え方で説明することが難しいことに特徴があるのかもしれません。

 まず第一の立場でいえば、株式分割でストップ高を続ける小型株はいうまでもなく、主力株の中で例外的なじゃじゃ馬である大手銀行株のこのところの動きにも背筋を冷たくするものがあります。信用建て玉をなくしてしまったからいうのではありませんが、最近の大手銀行株の上げ方は、昨年のようなハラハラどきどきしながらの上げではなく、4年前の春、だれもかれもが3万円のソニーを喜んで買っていたときのような、上がることがまるで当然というような自信過剰を感じます。
 第二の立場でいえば、その銀行株にしろ、小型株にしろ、まだまだ過小評価なのかもしれないという気持に襲われます。銀行株のたかだか5年前の水準や、たとえば現在29円のニューディールが1000万円に買われていた4年前のお祭り騒ぎに比べれば、今の株価はきわめてリーズナブルで穏当なものに思えてきます。
 そして第三の立場でいえば、百歩譲って、現在の人気小型株の水準が危険水域だとしても、それは全体相場の水準が危険だということは全然意味しません。
 小型株の急反落で主力株が下げると考えることは本末転倒であり、ほぼありえないと考えるべきです。問題は、主力株の中のじゃじゃ馬である銀行株の去就ですが、銀行株のファンダメンタル価値は、全体の株価に連動する特徴があり、経済環境がいまと同じで、かつ全体の株価がしっかりしている限り、銀行株だけが止めどもなく大幅安して、市場全体の急落の原因になることは考えにくいといえます。
 すなわち、小型株の大幅な急落や銀行株の限定的な急落は、全体の株価にとって大きなマイナスはなく、むしろそのエネルギーが他のセクターにシフトするという点で、プラスさえ考えられるのです。

 いろいろ書きましたが、いわんとするところは、このところ、部分的には眉をひそめたくなるような相場現象が生じているものの、ネガティブにばかり受け止めるべきではないということです。したがって、第一の考え方だけは、私は結論として否定したいと思います。
 第二の考え方は乱暴に書いてしまったので、補強でつけ加えると、冒頭に掲げたテンポスバスターズの場合でも、株価の動きはまさにバブルですが、よく考えれば、もしかしたら割安かもしれないという考え方をすることは十分に可能なのです。
 この会社のPERは昨日のストップ高で100倍近くになりました。数日前の日経金融が指摘するように、店舗数の急拡大の見込みにくい中古厨房品の販売業としては、PERは明らかに高すぎます。かつてヤフーのPER100倍以上を正当化したような、利益が年率2倍以上で増えていくような急激な成長は通常は期待できません。しかし、この会社が店舗設備だけでなく、店舗経営の総合的なサポートで、ビジネス領域を大きく拡大するなら、爆発的な成長可能性も否定できません。すでに、飲食店舗の内装はもとより、POSシステムの構築、経営指導、人材斡旋などの事業が具体化しつつあり、街の飲食店も含めた外食産業のパイの大きさ、多様さ、新陳代謝の激しさを考えれば、もしかしたら、まだ割安なのかもしれないという気がしてくるのです。

 こう書いているうちに、始まり直後には82万円(8.2万円安)と急落していた同社の株価がなんと97万円とまたしても大幅高になりました。
 この乱高下に一喜一憂していたら、とても今回の相場はやっていけません。気持を大きく、しかし緩めことなく、このエポックメーキングな日々を大切に過ごしていきたいものです。


第281回 舞い上がることだけが恐ろしい<4/7>

  いまの株式市場は、某大手証券の役員の言葉として日経新聞が伝えた「ニシンとカツオの大群が一緒にやってきた」という表現がぴったりの状況だと思います。
 俗にいう「盆と正月が一緒に」という表現ではあまりにもはしゃぎ過ぎで、自制心のほどが心配になりますが、ニシンとカツオという表現には、冷静な状況認識が含まれているのが感じられます。
 ニシンとカツオが何を意味するかについては、様々な解釈が可能です。ただし、主には次の3つの解釈ができると思います。
 1つ目は、直接的ですが、魚群の比喩は銘柄グループのことであり、ハイテクと内需の2つの大きな銘柄グループがともに絶好の投資環境を迎えているということです。
 2つ目は、もっと直接的かもしれませんが、魚群とは証券会社に収益をもたらす投資家のことであり、外人に加え、国内の巨大な個人資金がいよいよ動き出したということです。
 3つ目は、魚群とは市場の投資ニーズのことであり、インデックス投資家に象徴される代表株志向とアクティブ投資家の小型株志向がともに成果を期待で切る局面を迎えたということです。

 ここにきての東京市場は、昨日1日だけでも、ハイテク株の上昇で銀行株などが小動きに止まっているかと思えば、午後には銀行株が一転派手な動きで新高値に買われ、ソフトバンクやヤフーが急反落しネット関連の小型株もさすがに一服かと思えば、YOZANやテンポスバスターズなど成長期待株がストップ高するなど、まさに騒然たる動きとなっています。
 ソフトバンクは今朝も大幅安になっていますが、たぶん気にすることはないでしょう。よほどの小型株でない限り、一本調子に上がり続けることはなく、早め早めに押しが入り、次の上昇に備える。銀行、ハイテクの2本柱に加え、素材や小型や消費関連など様々な銘柄グループが自分の出番を待っている。いまの市場は非常によい形で銘柄循環が機能しています。

 なにもかもがうまくいくように思えるこのようなときこそ、自制心をキープすることが何より大切なのはいうまでもありません。手放しで楽観的になるのはもちろん危険ですが、かといって、慎重になりすぎるのも実は危険なことです。
 高くなれば買いたくなる顧客と(私自身もそのタイプです)、高くなれば売りたくなる顧客とがいて、そのどちらの行動もそれ自体は悪いことではありません。悪いのは、上昇の美酒に我を忘れたり、逆に上昇に乗り遅れて小我にこだわり、あとで考えてなぜあのときあんな馬鹿な行動をしたのか、自分でも不思議になるような行動をとってしまうことです。
 例えば古い話で恐縮ですが、私は若い頃からバリュー志向が強かったので、80年の第二次オイルショックで、日の丸原油を標榜して石油株が気違いじみた上昇を演じた相場に距離を置いて対処していました。ところが、その最終局面において、石油株ならまだしも石炭株の高値を買ってしまったのです。自分なりの理屈はあったつもりですが、要は石油株の上昇につけなかったひがみ(小我)の産物でした。その後もいろいろな失敗をしましたが、その失敗ほど、どうにも自分が惨めで、恥ずかしくて、やりきない失敗はありませんでした。

 現在のような好調な相場のときに、我々が自戒すべきは次の5つだと思います。
 1.自分が持ってないから、相場が間違っていると思い、ひねくれた気持で株価を見ること
 2.ただ上がったという理由だけで高所恐怖症になり、やみくもに利食ってしまい、あとから後悔すること
 3.上がることに慣れ、下がるリスクを軽視すること
 4.いくらで売ったらいくらもうかると、とらぬ狸の計算をして悦に入ること
 5.大幅に反落し天井を打った可能性が強まったときに、希望的な観測にすがって損切りしないこと(天井がいつかなど偶然にしか分かりません。急反落したからといって、いちいち慌てても仕方がありません。ただし、下げたあと相場が終わった可能性が高いと心の中で感じるときにも、人は欲ぼけからおうおうにして自分自身のその声に目をつぶってしまいます)

 毎朝コンピュータを見ると、顧客ごとの預かり資産評価額と信用の評価損益が一目瞭然です。一般顧客に対しては、毎月末の評価額を保存・集計しているだけですが、信用顧客の場合、信用評価益から10%の税相当額を差し引いたものを現物評価額に足して、毎朝集計し、折に触れて顧客に伝えるようにしています。
 この方法を採れば、売らない限り運用益が実現しないということはなく、売ろうと売るまいと、もうけはもうけ、損は損です。
 利食い千人力なんていう言葉がまことしやかに金言となっていますが、私は本質的にはまったく無意味な言葉で、要は「買い」か「売り」か「静観」かであり、日々そのいずれを選択するかを迫られているに過ぎないと考えます。
 現在のようなときは、日によって「買い」に変えたり「売り」に変えたりして器用に立ち回る必要はないと考えます。私の立場は、もちろん強気ですから、一般の顧客には買い増しを一貫してお勧めしていますが、信用の残高がそこそこある顧客には「静観」をお勧めしています。買い増ししなくても、エキスポ―ジャー(実質的な株式運用金額)が十分に高まっているからです。
 最近は、顧客の資産評価額がぐんぐん上昇しており、嬉しさがこみ上げてきます。それをいかん、いかんと自分に言い聞かせ、なるべくクールに顧客に伝えるように努力しているのですが、ときどきは1年前の今頃は苦しかったねと顧客と話し合い、ちょっと舞い上がってもしまいます。
 舞い上がって、損切りの覚悟を忘れることだけが、当面の唯一の本質的なリスクと考えています。


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