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第340回 北極星(2)<6/22>

 延々と続く膠着相場の中で、北極星をどこに見定めるかは大変な問題です。
 前回述べたように、日本経済の先行きに大きな希望を抱かない場合と、長期的な視点で成長を期待する場合とでは、日々の投資判断に天と地の開きが出ます。
 前者の立場に立った場合、新日鉄のPERが7倍を割ろうと、三菱重工のPBRが0.7倍になろうと、ただちに投資魅力にはつながりません。鉄鋼産業はまたいずれ構造不況業種に逆戻りするだろうし、いま重工にどんなに解散価値があっても、将来にかけて目減りしていく可能性があると考えられるからです。
 それに対して私は、後者の立場に立ちますが、それは前者の考え方が絶対に間違っていると思うからではありません。すなわち、日本経済の先行きが必ず明るいほうに進んでいるのだと断言する自信はまったくないのですが、それ以上に、暗いほうに進んでいるのだと決めつけることはおかしいと考えるのです。
 どんな時代にも、世も末だと思いたくなるような悪材料が一つくらいはあり、国の将来をはかなむ人はいます。しかし、いまの時代ほど、多くの人が国の将来に大きな希望を抱かず、といって極端な悲観にも陥らず、悟りきったような冷めた気持でいるときは珍しいのではないでしょうか。
 私がぜひ後者の立場を選びたいと思うのは、一つはそのような風潮に対する反発によってであり、一つは多数意見に組することは相場ではむしろ得策ではないという過去の教訓によってです。

 では、長期的な視点で、日本経済が緩やかながらも右肩上がりで進むと想定した場合、現在の株価はどのような意味を持っているのでしょうか?

 相場パターンの考え方として、金融相場と業績相場という用語があります。言葉のニュアンスから証券マンでさえ、業績を無視して需給関係でむちゃくちゃに買われるのが金融相場で、業績を重視して堅実に買われるのが業績相場と思っている人が多いのですが、まったく間違っています。
 図式的に言えば、不景気の真っ只中で、金利低下を支援材料にして疑心暗鬼的に買われる相場が金融相場であり、弱気側から見ればファンダメンタルズ無視の「不景気の株高」ですが、強気側から見れば、実体経済の回復を先見するきわめてリーズナブルな、業績や財務内容に神経質な上昇相場です。それに対して、業績相場は、景気がだれの眼にもよくなった後、金利上昇に抗して出現する上昇相場であり、楽観的なムードが市場にあふれているため、ともすれば目先の業績や企業内容を軽く見て行け行けどんどん型の株価形成になりがちです。
 
 米国の株価を政策金利との関係で見た場合、昨年春までが金融相場、その後低金利という支援材料がなくなったために調整期に入り、現在は金利上昇を織り込んで株価が上昇する業績相場への移行を模索中と見られます。
 それに対して、日本の株価は金利との関係は基本的にありえません。日本市場の膠着の原因は企業業績と株価のトレード・オフでは説明できず、企業業績そのもの、あるいは株価水準そのものへの気迷いでしか説明できません。といって、米国に比べ日本企業に特別な業績悪化の懸念があるわけではないので、結局のところ、日本市場には、経済の先行きに対して大きな期待を抱かない投資家が多いという見方に帰着せざるをえません。すなわち、端的に言えば、日本では、経済成長とは別のところに北極星を見ている投資家が多いということができます。

 私見では、日本の株価は金融相場のまだ途上にあると考えます。金融相場という用語は誤解を招きがちなので、<経済回復期の相場>の途上にあると考えたほうがよいかもしれません。
 長い経済低迷のあとの回復期ですから、疑心暗鬼が色濃くつきまとうのはやむをえません。むしろ迷い、株価がぐずつくことは長い目で歓迎すべきことです。株価は結局ファンダメンタルズと企業内容を反映するのですから、迷うことによって株価は確かなものに少しずつ近づきこそすれ、違う方向に行ってしまうわけではありません。

 ちょうどいま、今日の相場が終わりました。
 日経平均58円高のわりには主力株の動きに精彩はまったくなく、野村9円安です。最近の主力株とそれ以外の動きを、例えば3400番台で見た場合、企業規模と1株利益で勝る東レと旭化成が見送られ、帝人、三レと格がやや落ちるにつれ値動きが段々よくなり、本来最弱の東邦テナックスが飛ぶ鳥を落とす値動きというのですから、材料の有無を別にして、目先の需給関係がもっとも大きな株価を動かす要因となっていることは疑いありません。
 だから、需給関係を重視して銘柄選択をするのは一つの手ですが、私はあまり気にしていません。私の北極星が指し示すところでは、日本株はいま数十年に一度の買いチャンスにあるのですから、需給関係で目先ちゃぶつき多少の時間を損じることより、大勢の方向を間違えて大きな悔いを残すことを何よりも恐れるからです。


第339回 北極星<6/15>

1か月あまり前、5月11日のこの欄に書いた文章を再掲します。
<今朝は駅に向かう道すがら、つくづくにため息をつきたくなりました。毎日、毎日ただ待っているだけで日が過ぎていきます。待っているのは、具体的にはハイテク株の底入れ上昇ですが、鮮烈な上昇はついぞ実現しそうにありません。それに双日です。こちらも泥沼にはまり込んだような動きで、当面は軟弱な動きが続きそうです。>

 この日の終値:代表的な半導体株アドバンテストは7470円、双日は489円、日経平均は11120円。それぞれを昨日の終値と比較すると、アドバンテスト+8.8%に対し、双日は−6.5%と若干の明暗が発生しているものの、日経平均は+1.9%と基本的に横ばい。NECなど普通のハイテク株や、銀行、鉄鋼など内需関連の代表株で見ると、業種を問わず、ことごとくまったく横ばいという状況です。
 何を言いたいかというと、私に限らず、第一部市場の銘柄に期待した投資戦略を採っている限り、ため息をつきたくなる状況がえんえんと続いているということです。
 しかも、私見では、3月以降は新興市場株も含めた中小型株も一時の勢いを失い、日本株市場全般に(ごく一部の鉄火場銘柄を除き)膠着感が漂ってきたと考えます。上に例として掲げたアドバンテストは、米国のハイテク株反騰を素直に映して上昇した数少ない銘柄の一つであり、双日はたまたま消化難の材料が出現し、下値波乱の試練に見舞われた数少ない銘柄の一つです。もっとも動いた部類に属するはずの両銘柄を比較してさえ、出入りでわずか15%の明暗しか発生していないのですから、他の銘柄の膠着状況は推して知るべしです。

 今朝の日経に、5月には決算発表、6月にはインテルの中間発表と、口実をあれこれ挙げて見送りを続ける国内機関投資家に対する証券会社担当者の愚痴が紹介されていますが、膠着相場を嘆いても仕方がありません。冒頭に掲げた文章は、前回も今回も愚痴や言い訳で掲げているわけではありません。
 大切なことは、緊張感を、そして自分自身を見失わないことです。
 経済に永遠の横ばいはありえず、膠着相場は、長い時間の中で見れば、潮の流れの一時的なよどみにすぎません。とんとん拍子で流れてきた川が、海に近づき、海から来る潮の流れにぶち当たり、拮抗し、どちらが勝つか分からないまさにその瞬間です。
 最初はみなどちらに流れるのかハラハラどきどき緊張します。しかし、膠着が長引くにつれ、大多数の人が緊張することに疲れ、実質的には判断を停止します。いまの相場でも、相場観を聞かれると、年内の日経平均は1万3千円とか1万円とかそれぞれもっともらしい予想を述べはするものの、言葉の重みや緊張感が漂って来ない人がほとんどです。(私も、聞かれれば1万3500円と答えますが、その発言自体はほとんど惰性です)
 そうこうしているうちに、我々は方向感を失います。いや、自分自身を見失います。自分が何を望み、どこに行こうとしているのか見失うのです。
 膠着相場の中で、買いばかりじゃだめというわけで、売りも勧め始めたところ、銘柄ごとにも判断がごちゃごちゃになって、自分が売り方なのか買い方なのか分からなくなってきた外務員や、先着100名様の相場で短期売買を繰り返すうち、超値嵩株と超低位株の両方で驚くほどの高値づかみをして塩漬けにしている投資家はごろごろいます。
 
 さて、いよいよ本題。現在の、まるでモンゴルの大平原のような、どこまで行ってもただの原っぱが続くようなとりとめない相場状況の中で、何をもって北極星とすべきかということです。
 簡単じゃないか、という人がいるかもしれません。行く方向が東西南北あるわけでなく、投資行動の北極星は「儲けること」に決まっている、だからその日その日「儲けることに」全力投球すればいいんだよ、と。
 しかし、実はその「北極星」は漠然としすぎていて、多くの人がまさにそのために方向を見失ってしまうのです。膠着相場の中で儲け続けることは至難の業で、ごく一部の天才的なデイトレーダーを除けば、多くの人が迷走にはまりがちなのは、上に外務員と顧客の一例を挙げたとおりです。

 私見では、北極星の設定の仕方は、大ざっぱに2通りに集約できると考えます。
 1つは、弱気の大局観で、日本経済の大きな流れを、超長期にわたる不活発化・空洞化の過程として見すえることです。
 もう1つは、強気の大局観で、世界経済がまだ長期的に成長を実現していく中で、日本経済もその一翼を担うという視点から、現在を経済再生の途上として見すえることです。
 前者の見方に立てば、03年から昨年にかけての上昇相場のように、長い時間から見ればほんのつかの間の逆流時期があるにしても、今後の相場は基本的には衰退もしくは停滞に向かっているという認識になります。
 後者の見方に立てば、昨年からの相場膠着はいっときの流れのよどみであり、日本株上昇の大勢波動の中での1局面にすぎないという認識になります。

 相場観は折々に変化しても、北極星は簡単にすげ替えるべきではありません。私の北極星は、世界経済と日本経済の将来についての楽天主義であり、これは生き方にかかわる問題ともいえます。
 では、その北極星のもと、現在をどのような相場位置として認識すべきか、例えば次に来る上昇相場は業績相場か、それとも金融相場の続きなのか、それらについて次回考えてみたいと考えます。


第338回 狼少年<6/8>

 朝の通勤途上、他社の同業者と一緒になり、お互い苦笑いしました。手数料がさっぱり挙がらないのは聞かなくても分かりますし、いまさら気にするまでもありません。問題は、二人とも強気方針で来て、いまにも相場が躍動するというようなことさえ言い続けながら、現実の相場状況は、期待とはまったく違う様相で進行し、しかも長い時間が経っているからです。
 「狼少年になってしまいましたね」
 「いや、それどころか、狼少年が自分で疲れてきちゃったよ」

 証券マンはつねに強気で、大相場、大相場と威勢のよいことを言うのが当たり前と思っている人が多いようですが、実はそうではありません。私の知っている多くの営業マンは、カメレオン型で、言うことは臨機応変、強気か弱気か変幻自在です。ただバブル崩壊前のかつての証券界(特に大手・準大手)では、弱気を言うことを許さない雰囲気が厳としてあり、大勢に順応して強気を言う人が多かっただけと思います。
 その中で、私は証券マンになった頃から、よくも悪くも頑固に自分の価値観にこだわってきたほうだと思います。
 多くの証券マンは人から聞いて自分の勧める銘柄を決めます。私はただ四季報をめくってPERの低い銘柄を勧めるだけでしたが、それでも80年代前半まではそこそこの成績を挙げることができました。
 四季報がまったく役に立たなかったのは80年代後半、特にNTTの上場後です。四季報より東京湾岸の地図が役に立つころ、私は最初茫然自失としておりましたが、そのうちにカラ売りや、バブル末期に売買が始まったプットオプションで自己主張することを覚えました。

 何を書いているのかといえば、私はすでに長く強気を言い続けているものの、単なる惰性で強気側に組しているのではないことを申し上げたいからです。
 私の弱点は、表面的なPERに左右されることです。例えば、2000年のネットバブルの崩壊後、それまで弱気だった私がわりと早めに強気に転じ、半導体株で大損を顧客にこうむらせてしまったのは、当時の絶好調の業績からすればリーズナブルな水準に株価が下がってきたからです。なぜ業績の急悪化の可能性を軽視し、安易に値ぼれしたのか? 知らず知らずバブルに浮かれ、判断力を曇らせていたとしかいいようがありません。
 しかし、それでも私がかろうじて矜持を保っていられる点は、一時的な気迷い時期を別にすれば、おおむね自分自身の価値判断をもとに相場判断をしてきており、長期的には大勢順応のカメレオン型の営業マンより顧客資産のパフォーマンスがよいということです。
 長い間には、様々な栄枯盛衰を見てきました。誠備で儲けて結局家を無くした人や、逆にその関連銘柄のカラ売りで儲けを積み上げたのに、調子に乗って1銘柄の大失敗で雲隠れしようとした人や、ネットバブルでの喜怒哀楽の数々。おそらく、長い眼で見れば、最近の新規公開株を数倍になっても短期売買の対象にしている人のほとんどは、衰退していくと考えます。

 いま10時半、日経平均は案に反して98円高と堅調です。
 私は、これまで通り自分自身の価値観から、「いまの株価は、ほとんどの主力銘柄が買い」という方針を持続していきたいと思います。
 「いくらいまPER割安に見えても、業績が下方修正されれば、売りだぜ」という声があり、ネットバブル崩壊後の半導体関連の業績急悪化が思い浮かびますが、当時とはまったく状況が違います。
 例えば、合同製鉄の会社予想の今期EPSは70円(税考慮後46円)で、それに対して株価が300円台前半であったのは、業績の先行きを相当に悲観的に見ている結果ですが、ご承知の通り、ここに来て株価は回復してきており、30%以上の増額修正を見込むアナリストも出てきました。
 中国経済との関連で鉄鋼の好業績を一過性と考える人が多いものの、好業績の根本的な要因は長期にわたるリストラや供給調整の成功にあり、中国はじめ世界的な経済活況はそれにはずみをつける形で作用したにすぎないと考えるべきです。合同製鉄の社長は、穏やかな言い方ながら、同社の主力製品について中国や韓国が脅威になることは少なくとも5年ほどは考えにくく、かつ原料スクラップとの値差はほぼ確実にキープできる状況にあるという自信を表明しています。
 合同製鉄は、1例であり、私見では、いまはあまりにも多くの人が、先行きを悲観視することに慣れすぎて、安いものを安いと感じる心を見失っているのではないかと考える次第です。


第337回 ゆでガエル<6/1>

 先日、いつもは多忙な新興企業の社長と、やや寛いで意見を交わす機会に恵まれました。この社長はつねにバイタリティーにあふれており、不況さえ、工夫すればビジネスチャンスになると考えてきた人です。
 その社長が「日本国内のビジネスには、限界が見えてきたのかな・・・・」と珍しく気弱なことをおっしゃったので、がく然としました。社長の場合、だから海外での事業展開を検討し始めたというわけで、ご自身のファイティング・ポーズは変わらないのですが、つねに前向き志向のこの人までが日本経済に希望を見失ったような気持を抱き始めたことにショックを受けたのです。
 社長は、日本経済の救いようのなさの比喩として、「ゆでガエル」の話を持ち出しました。カエルがバケツの中で少しずつゆでられていくと、温度が上がって自分がゆでられているのに、そのことに気がつかないまま本当にゆで上がってしまうというものです。団塊の世代のリタイアで労働人口はどんどん減るし、土地価格はもともとが高すぎて上がりようがない中で、経済の上昇機運が育つはずがなく、時間とともに経済の空洞化が救いようもなく進行していくという見方です。
 それに対して私は、「むしろ、逆のゆでガエルということもあるのではないでしょうか」と懸命に反論しました。団塊の世代のリタイアは大方の企業にとって経営の効率化につながるし、経済の大きな流れは停滞から緩やかながら成長へと反転しようとしている。時流が逆の方向に流れ出したのに、カエルはそのことを軽視して、デフレ気分をまるで百年の真理のように引きずっているのではないでしょうかと。・・・・・・・・

 アメリカの株式市場では、すでに長く膠着ムードが市場を覆っているとはいえ、それはあくまで現在が経済成長の踊り場にあると思う人が多いからであって、経済の拡大が長期的に滞ってしまうと考える人はほとんどいないでしょう。
 それに対して、日本では、上述の社長に限らず「日本はもうダメかも・・・・」と経済の成長性に暗い疑念を抱いている人はゴマンといます。
 かく言う私も、いまフリーターをしている息子の世代が社会の中枢を占めるころ、日本のGDPがどうなっているかと思うと暗澹たる気持を禁じえません。案ずるより産むが易しで、フリーターやニートが多くても、経済は活力を保てるのかもしれませんが。
 今年の初めには、いくら日本がダメでもまだ少しは伸びる(回復する)という気分が強く、日本株は米国株以上に強い動きをしたのですが、4月以降は、急速に日本経済への期待がしぼんできました。特に先週の段階では、仮に米国株が上がったって、日本株は下がるのじゃないか、仮に先物高で日経平均が多少上がったって、個別には積極的に上値を買おうと思う人なんかいないのじゃないか(先週金曜の日経平均164円高はまさにそういう状況)という悲観的な気分が市場を支配しました。
 今週はその傾向にやや変化が出てきたと考えます。主力株の値動きはそれほど改善していませんが、例えば日本電波工(6779)などグロース系の中堅株の一角に久々に躍動感のある上昇が見らます。

 現在の状況のあっては、日本経済に期待感が芽生えることと主力株が買われること、あるいは日経平均が1万2千円を突破することはほとんど同義だと思います。
 そして、ちょっと違うことのように思えても、鉄鋼、海運、化学などの低PER市況関連や電子部品株が買われることも、ほとんど同義です。資産価値や配当利回りや収益の安定性で株を買うのではなく、収益の水準や成長性に着目して株を買うことは、経済全体の拡大にある程度の信頼があって初めて可能だからです。

 大きな視点で、状況が変化しているのに変化していないと思い込んでいるゆでガエルはどちらなのか? その問いが当面の市場動向を決する隠れた焦点であるといって過言ではないでしょう。
 私は現在(現在も?)曲がり屋なので、安易な予想は慎みます。(双日についての見解は「発言録」28日記入分以降は変更がありません)


第336回 双日・白紙状態の中で<5/25>

 双日がCB発行で急落しました。発表後、昨日まで4日続落、安値は405円で、発表前の460円から12%の下げですが、この間日経平均は累計で300円ほど上げているので、実質的には少なくとも15%ほど割りを食った形となりました。
 CB発行について、公式的な見解は「発言録」に掲載しているので、ここではもっとフランクな話をさせていただきます。

 双日に注目して2年になります。注目した理由は、銀行から金融支援を受けるに際して債務免除を含まなかった点で、その前に注目していたオリコと共通していたからです。債務免除を受ければ、減資はもちろん復配時期についても株主責任が問われることになる一方、優先株による支援なら、株主は胸を張って自分の権利を主張できるはず。つまり、その分、再生銘柄としては気持のよい投資対象であると考えたのです。
 しかし、実は逆でした。債務免除なら一時の恥で済む一方、双日の場合は、時間の経過とともに、優先株の存在が株主にとって重い十字架として意識され始めました。昨春、ダイエーなど債務免除を受けた銘柄が華々しい上昇を示す中で、双日は前年秋の高値を上回れませんでした。
 本来、経常収益の水準からは時価総額が5,000億円あっても驚くに値せず、他の商社の現水準との比較からも、伊藤忠の時価総額が8,000億円台、丸紅の時価総額が5,000億円台に対して3,000億円台の時価総額があってよいはずですが、現状は1,000億円強に過ぎません。おおざっぱに考えて、その落差は、優先株の転換によって3倍以上に発行株数が増加するか、もしくはそれに匹敵するデメリットが優先株によって発生すると市場が評価していることを意味しています。
 それに対して私は、オリコとの比較から、市場の評価は悲観的に過ぎないかという見解を持っておりました。オリコは、同業とのPERを比較した場合、優先株の存在が極端に大きな割引要因にはなっていないようです。また、ことし2月には伊藤忠が筆頭株主として登場し、優先株の一部も引き受け、したがってこの分は将来の希薄化懸念が高まったにもかかわらず、市場はむしろそれを好感しました。
 銀行の引き受けた優先株はそう簡単には希薄化につながらない、仮に多少希薄化につながってもオリコの場合のように好感される場合もあると楽観していたのですが、今回のCB発行の報道は、その楽観を打ち破られ、現実の厳しさを思い知ることとなりました。同じ希薄化(発行株数の増加)でも、特定株主の持ち株増加と市場への分散ではまったく意味合いが異なります。
 今回のCB発行によって、双日の経営基盤はほとんど何も変化しません(株主資本の内訳が変わりますが、実質的には大きな意味がありません)。その一方で、2億株分の優先株が1.2億株プラスマイナス分のCBに振り替わり、2年以内にほぼ確実に普通株が増加することが決定したのです。もし優先株の買い取り資金を出資するのが、例えばオリックスだったら、オリコの場合と同様非常に好感されたはずですが、証券への割り当てですから、最終的には第三者に売却されます。野村証券引き受けの場合、過去の例から見て、外資系や一部国内系のように短期的に市場に放出せず、安定的な消化を目指すと見られるものの、株主にとっては気の重い話です。

 さて今後についてですが、とりあえず目先的に売却することは考えていません。後述するように、今後もある程度の希薄化は覚悟せざるをえないものの、今回のCB発行によりよくも悪くも優先株処理の道筋が見え始め、優先株の処理どころか会社存続さえ五里霧中だった昨年と違い、極端な下値リスクを想定する必要はなくなったと思われます。
 ただし、すでにお持ちの顧客に買い増しを勧めることは、当面差し控えたいと思います。割安な日本株の中でも、双日は飛び抜けて割安であるとこれまで考えてきたわけですが、その考えをいったん白紙に戻します。双日の他にAもBもあり、双日だけに拘泥する必要はないという考え方を当面心がけたいと思います。

 双日の妥当株価について考え方は、おおざっぱに次の通りです。
 まず優先株のうち、昨年発行分は、そのほとんどをUFJが犠牲的な条件で一手に引き受けているため、みずほが普通の条件で一手に引き受けているオリコの場合以上に、好条件の超長期債務(劣後債)として考えてよく、信用は大いに補完するものの、株価の割引要因としてはごく小さいはずです。
 主な問題は、一昨年、UFJが中心となって銀行団で引き受けた優先株の残額(526億円×4=2104億円)がどう処理されると想定するかです。
 これが仮に全部、今回と同じ条件で処理されるとすれば、約5億株の普通株増加につながり、今回と合わせて最終的な希薄化は、現在の3.5倍ということになり、現在の予想1株利益145円は、実質的には41円程度に評価すべきということになります。
 (アバウトな話なので、UBSの100億円等による希薄化もアバウトに考慮しています)
 それに対して、会社は、今後については期間利益で償却していく方針を掲げています。3年後から526億円ずつ4回、最終的には9年で2104億円以上償却しなければなりません。この会社の言明に対して信用が戻っていないため、眉唾に考える人も多いでしょうが、私は十分に可能と考えます。当面は税負担が軽減することから、4年間でその金額を株主資本として積み上げることが可能です。(株主資本さえ積みあがれば、キャッシュの工面には不自由しません)
 もし、会社の方針通りに進めば、最終的な普通株増加は、UBS等の小額を加え、転換価格の変動を考慮しても1.5〜2億株程度であり、希薄化倍率は1.7倍前後に過ぎず、現在の予想1株利益は実質的に85円程度に評価できることになります。

 前場終値は、今日も10円安。405円が安値になるか予断を許さなくなりましたが、上述の通り、目先は達観しています。


第335回 選択を静かに迫られている<5/18>

 昨日は、米国高、GDPの発表がまずまずと内外の好材料が揃っただけに、まさかの7日連続安でした。
 以前は証券マンだった先輩から電話があり、「どうなの?」と聞かれました。先輩は、いまは他業界の人ながら、目立った悪材料がないまま静かにスルスルと下げる相場状況に、経験上警戒すべきものを感じて電話してきたようです。
 私は「うーん・・・・困りましたね」としか答えられませんでした。これまで強気方針で臨んできたものにとって、昨日の相場は、強気と弱気ががっぷり激突して無念の敗退をしたというよりも、肩透かしを食って土俵に取り残されたようなもので、買いだ買いだと無駄に力んでいる自分を嘲笑われたような、まことに惨めな気分に追いやられていたのです。
 悪材料の出たとき、投資家は案外にタフさを発揮しますが、わけの分からない下げに見舞われたときは、へなへなと気持が崩れ、強気から弱気に180度宗旨変えしたくなるような衝動に襲われるものです。
 今朝も10時過ぎ現在、日経平均はわずかに20円高。市場が戦場だとすれば、買い方の陣営は浮き足だっており、攻撃のチャンス到来を告げる太鼓が鳴っているのに、闘う意思を明確にして前進する兵はごくわずかという状況です。

 で、結局、どうなのだ? ということが問題ですが、私は強気です。
 強気を言い続けてきたから、強気を言うしかないということではありません。かつて私は2000年夏以降の下げ相場の規模を見誤り、顧客に大変な損害を与えてしまいました。だから、もう大きな痛手は絶対に与えたくないと肝に銘じていますが、現在の株価構造を考えた場合、どんなに弱気的に考えても、大きな下値は想定できません。
 近隣国の反日運動とか原爆保有とか、心配したらきりがありませんが、極端な想定をしなければ、いま株が下がる要因があるとしたら、<景気鈍化→企業業績下方修正>が現実のものになることでしょう。企業業績が予想されている通り堅調なら、いま日本株のほとんどはきわめて魅力的な投資対象としてだれの眼にも映るはずであり、したがってヘッジファンドが撤退しようが、日本の株価上昇は時間の問題です。

 では、<景気鈍化→企業業績下方修正>の可能性がどのくらいあるのでしょうか?
 私には予想さえできません。エコノミストでそんなことはありえないと明言している人もいますし、ストラテジストの中には企業業績は必ずや下方修正され、日経平均は1万円を割れると明言している人もいます。
 株価もそうですが、景気も、本当はだれにも確実には予想できないのではないでしょうか。例えば天気予報。最近こそ精度が格段に上昇していますが、昔は専門家の天気予報より一百姓や一漁師の予想のほうがよほど確かでした。経済の予想はまだ当分は専門家のほうが素人より上手だとはいえない状況が続くと思います。
 結局のところ、景気と企業業績がどうなるかは、人に意見を聞くよりも、自分自身の感性で決めたほうがましと私は考えるのです。

 私は日本政府と同じ意見で常識的ではあるものの、景気は今年後半にはかなり上向くような気がします。期待できるのはハイテク製品の需要です。鉄鋼や海運はいまあまりにもよすぎるので、悪くなるのじゃないかと言われれば反論もできませんが、ハイテクはそろそろ上向いてもおかしくありません。デジタル家電や、ネットワーク機器、通信ソフト、そして半導体需要はそろそろと上向くと私は考えます。
 半導体が上向けば、企業業績全般が上向きます。企業業績の先行きに上向き気分が出れば、株価はかならずや上がります。私は半導体株や景気敏感株を中心に、強気方針を継続しています。
 今日あたりの水準がだいたいの意味で買い場になっているかどうか、あとから検証するために、私の注目株の前場終値を掲げておきます。
 短期注目・・・・(半導体関連株)アドバンテスト7590円、NEC572円、ディスコ4410円、東京精密3890円(新追加)、エスペック1090円(今日の決算次第)
 中期注目・・・・双日458円、ネットワン274,000円、アルバック2890円、商船三井622円(川汽を微変更)


第334回 茫漠の日々を<5/11>

 連休前に「NY一進一退」という表題を掲げましたが、連休を明けて米国株がなおも方向感のない動きを続けているとは思ってもみませんでした。
 一進一退は正念場の現象です。連休中に米国株が下離れし、NYダウが1万ドルを大きく割れ込むことを懸念した人は多かったはずで、だからこそ先週6日の日経平均は、米中になにごともなく連休が過ぎつつあることを好感して大幅高しました。
 私も連休中は朝起きて米国相場を確認するたび、プラスが続いたのでほっとしていましたが、いま思えばあまりにも小幅で力強さに欠けていました。個人的に非常に注目している半導体株指数にいたっては無気力そのものの動きでした。
 そこにきて今朝起きてみれば、ダウ103ドル安。日経平均も9時50分現在110円安とまったく追随しています。
 今朝は駅に向かう道すがら、つくづくにため息をつきたくなりました。毎日、毎日ただ待っているだけで日が過ぎていきます。待っているのは、具体的にはハイテク株の底入れ上昇ですが、鮮烈な上昇はついぞ実現しそうにありません。それに双日です。こちらも泥沼にはまり込んだような動きで、当面は軟弱な動きが続きそうです。

 そんななか、「茫漠の日々」という表題が浮かんだのですが、「を」をつけたのは、詠嘆しているばかりではいられないからです。
 日々の市場をみれば、他の人たちは、それぞれに頑張っています。
 今朝の日経によれば、松井証券の信用買い残が年初の5割増の4000億円台に達したそうで、個人投資家の意気は軒昂です。新規公開株やストップ高のないマーケットメイク銘柄の株価の躍動ぶりにはものすごさがあります。
 かと思えば、TOPIXの算出比重の変更に伴うサヤ稼ぎを狙ったり、カネボウ以外の日経平均銘柄の買いと先物売りを狙ったり、ヘッジファンドもどきにあちらこちらの同業種で売りと買いを両建てしたり、やや出がらし気味ながらPBR割安株を狙ったりで、様々な投資手法が入り乱れています。
 今日も武田薬が10円だけ高値を更新していますが、トヨタは買えないけどディフェンシブの武田なら買えると思う投資家が存在しているわけで、見方によれば、いまほど日本の株式市場がたくましかったことはないのではないかと思えるほどです。
 過去の日本株市場は、ともすれば大手証券の旗振りのもと、寄らば大樹(官)の陰+赤信号(ファンダメンタル無視)も大勢で渡れば怖くないの考え方が市場を席捲し、様々な意見が咲き乱れる素地に欠けていました。

 歴史的に見れば、現在はおそらく大転換の日々であるという考えは変わりません。ただし、その変化の歩みは遅々としており、なまじっかの思い入れは眼前の事象に裏切られ、なおかつ力めばドン・キホーテのように時代に取り残されかねません
 達観するほかありません。私はまもなく日米のハイテク株に躍動感が戻ると考えますが、それはあくまで一つの想定であり、目先の日々はそのように進まないかもしれない。銀行や過剰債務銘柄など長期間信用の危機にさらされた銘柄群は、必ずや水準訂正の余地が大きいと考えるものの、それもまだ先の長い話かもしれない。とすれば、この茫漠とした日々の中で大切なことは、ある一つの想定だけにこだわらず、様々な事象に是々非々の態度で臨むことでしょう。ただし、どんな状況になっても、ファンダメンタルを無視して目先の値動きだけに狂奔することは、私が私である限り、したくないものです。

 ところで、昨日、双日の決算説明会がありました。ご報告できることは以下の3点で、やや心象的ながらすべて前向きに評価できると考えます。
 1.土橋次期CEOの発言には若々しさとクリアさがあり、好感が持てた。(西村現CEOにも好感が持てた)
 2.今期業績予測は無理に掲げた目標数字ではないと感じられた。
 3.優先株による希薄化を防ごうとする意欲が感じられた。
 なお、優先株については、UBSの100億円の転換売りは目先の需給問題であり、本質的な問題は2年前に銀行団向けに発行された2630億円が、来年5月を最初として2年おきに5分の1の526億円ずつが転換可能となることです。これがもし全額転換されていけば、最終的には普通株が10億株増加し、約5分の1に希薄化するわけですが、この優先株の買い入れ償却について相当に前向きな発言がなされました。
 まず来年分の526億円について「株主資本の水準を維持しながら、買入・償却を実施するスキーム」を「最終的な結論をうべく検討中」(西村CEO)ということで、6月の株主総会までに具体的な発表がある可能性が高いと思われます。
 さらに残り部分については、「期間収益の積み上げを原資として」順次買い入れ償却を行う方針を明示しています。
 それらの方針が具体的な決定として発表された場合、去年発行された優先株のほとんどはUFJが犠牲的な条件で引き受けており、希薄化につながる懸念が小さいだけに、双日株のバリュエーションに大きな影響を与えるものと思われます。


第333回 NY一進一退<4/27>

 先々週は「203高地」という表題で、日経平均1万2千円に向けた上昇が近々に始まるであろうという期待を述べました。先週はさらに「インテル以後」という表題で、米国半導体株の底入れにより、今すぐにも日本株の本格上昇が始まるであろうという予想を述べました。
 しかし、私の期待や予想は無残にスカを食ったのです。先週、インテルの決算発表翌日の木曜、米国市場は途中から下落に転じ、それを受けて日経平均は一時1万700円台まで再急落しました。
 この木曜の日には、私もがっかりして、ハイテク株に見切りをつけたくなりました。顧客の一人が虎の子のアルバックを売ろうかと言いましたが、私は何も言えませんでした。ただ、幸いにしてその他は狼狽売りせずに持ちこたえ、今週に入っては隙あらば買ってやろうという姿勢で臨んでいます。

 日経新聞は、最近の相場傾向を「米国市場の写真相場」と表現しています。しかし、実際はちょっと違うようです。写真はすでに起きたことを忠実に映すだけですが、現在の日本株相場は、米国市場の動きを先取りしようとして動いています。例えば先週末のNYダウは60ドル安だったのに、月曜の日経平均は27円高。当日のNYダウ84ドル高を先取りした形になりました。逆にNY高を受けた昨日の日経平均は37円安。やはり昨夜のNYダウ91ドル安をある程度予見した形になっています。
 今朝の日経平均は、小幅安。このところの米国相場は、方向感が定まらないまま一進一退の動きなので、今夜の米国は上昇する確率のほうが大きいと見られるものの、続落すればNYダウが再び1万ドルすれすれになることから、気迷い感が漂っています。

 予想がはずれて本来なら方向転換も考えなければいけない私が、なぜハイテクに強気になっているのか、詳述は省きます。簡単に言えば、ハイテク株はすでに調整が長く、業績が多少悪化しても大きな下落波動が始まるとは考えにくいことです。例えば米国の半導体株指数でいえば、昨年1月の560ポイントから、9月に350ポイントまで下落し、現在は388ポイントで、現状では昨年9月を上回る悲観に見舞われることは到底考えられない以上、下値は限定的と考えます。(在来株についてはこの限りではありません)
 私見では、昨日15ドルちょうどで終わったアプライドマテリアルの株価が上向くかどうかに特に注目しています。先週も書きましたように、過去1年、有力ハイテクとしてはもっとも弱い動きを続けたことに加え、同業の東京エレクはもとより、日本には半導体製造装置の関連銘柄が多いからです。

 双日が明日の決算発表を前にして強い動きをしています。決算発表自体には大きなサプライズがないと予想されるものの、不良債権銘柄ではないと認知される第一歩になると期待しています。
 超低位株にとって、よい数字の発表は材料出尽くしにならず、再評価のきっかけになることはよくあることです。かつてコア銘柄だった合同製鉄は、2年前の決算発表の日、たしか80円前後だったと記憶します。特に驚くべき発表ではなかったにもかかわらず、安心感により発表後3か月足らずで280円台まで上昇、1年後には523円まで達しました。
 今回は、@全体の地合いが当時より弱い、A優先株による希薄化懸念がある、B復配にはまだ1年かかる、C会社の発表に信頼感が回復していない、などの理由から短期間に数倍化することは考えにくいものの、時間をかければ大きな期待を持ってよいと考えています。
 優先株がどのくらい株価の割引要因になるかという問題は、機会があれば5月10日の決算説明会後に論じたいと考えます。なお、連休に入ることから、来週はこの欄を休みます。


第332回 インテル以後<4/20>

 朝起きて、インテルの決算発表そのものより、時間外取引が堅調に始まったことでまずは一安心。想定していた最悪ケースは、発表数字はよかったのに株価が下落する場合です。それに対して、最良のケースは、発表数字は悪かったのに株価が上昇し、悪材料出尽くし感が市場全体に広がる場合ですが、よい数字を受けて株価が上昇することにもとより不服はありません。
 銀行など内需関連株がちゃぶついた形になっている現在の日本株の相場は、上がるとすればハイテク株が鍵を握っています。そして、ハイテクの鍵はパソコンと半導体であり、パソコンと半導体の鍵はインテルであることから、今回のインテルの決算発表はハイテク株のみならず、日本株全体の方向性を決する分水嶺みたいなものと考えてきました。
 念を入れれば、今夜のナスダック市場の終値を確認したいところですが、現時点でほぼ大丈夫という目安はたちます。
 その理由は、日米両市場とも悲観が一巡したのではないか、今後はさらに悲観が強まるより、楽観が台頭してもおかしくない情勢になってきたと思われることです。
 根拠は次の通りです。
 @月曜の日経平均432円安は、現物出来高20億株、先物出来高15万枚という下げ相場では記録的な売買量を伴い、かつ第一部市場で1622銘柄とほとんど全銘柄が売られ、一応の悲観が出尽くした形になったところに、昨日今日の個別銘柄の動きはいわゆるコツンときた形になり、経験的には底値水準を確認した可能性が高い(仮に、再度下落してもその前後で二番底を打ちやすい)。
 A日経新聞で、米国の景気減速を表現するうえで「ソフトパッチ」なる言葉が紹介された。このことは景気減速がだれの眼にもポピュラーなものになったことを示し、株価にはむしろ有望な材料。
 B半導体製造装置のアプライドマテリアルが先週金曜日に2年来の下値抵抗線だった15ドルを下回ったものの、昨夜回復し、一応の悲観が出尽くした形になった。半導体製造装置はシリコンサイクルにもっとも敏感に反応する業種であり、主要ハイテク銘柄の中で目だって弱い動きを続けてきたこの銘柄が強い動きに転じれば、ハイテク全般に心理的な好影響を与えると思われ、とりわけ、日本市場では東京エレクはもちろんのこと、半導体製造装置関連の銘柄が多く、地合い全般に強い影響を受けることが確実と思われる。

 恥じを述べねばなりません。先週後半から私は「静観」を顧客に説きました。月曜の大幅安の中で、かなり多くの顧客から「買い場か?」と質問を受け、私は「週半ばまで待って、上がりだしてから買いましょう」と答えました。幸いにして、ほとんどの顧客は、「どうせ上がるなら、安いときに買ったほうがいい」ということで、買いを実行してくれましたが、もしNECの580円台や双日の450円台を買い逃し、私の言葉を恨む結果になっていたらと思うとぞっとします。
 ただし、といって、こんなことをいえば横着だと思われるかもしれませんが、深く反省するわけではありません。所詮、顧客と我々外務員の立場は違います。我々のほうから、我々の命綱である顧客に大きなリスクを負わせるわけにはいかないのです。相場が大幅に下げたとき、我々はまず何よりも、信用顧客だったら追証にならないように、現物の顧客だったら間違っても運用が水浸しにならないように、つまり無事生き延びていくことをまず優先します。

 我々の立場は投資家と同じではない。そのことは割り切らざるをえません。そのうえで、リスクを覚悟したうえで、月曜火曜の悪目を敢然と買い向かった全国の投資家に敬意を表します。
 前場は日経平均68円高と伸び悩みました。明朝起きて、ナスダック市場の結果を見るまで手放しでは安心できないものの、半導体底入れの手応えは確かなものになりつつあると考えます。


第331回 203高地<4/13>

 日露戦争で英雄になった乃木大将は、司馬遼太郎が書いている通り、おそらく戦略や戦術を練る上では凡庸というより人並み以下の能力しかなく、そのために数多くの人命が失われたものと思われます。
 乃木大将を評価する人には申し訳ありませんが、彼は時代に利用されました。日露戦争の帰趨に重要な影響を与えた203高地の攻略は、作戦面では凡庸なトップが、凡庸な発想で費用対効果を無視して大きな犠牲を払って出した結果であるにもかかわらず、まるでそのトップの人格の賜物であるかのように喧伝されたのです。
 トップの欠陥にふたをして、美談を作り上げる精神が、その後の神がかり的な軍国主義へと突き進んだ不幸な歴史につながったという見方ができます。それはまた、第2次大戦後の高度成長の中で、大企業のトップが凡庸化し、自浄作用を失い、特に銀行・保険など金融業界のトップが老害を撒き散らしながらのさばり、結果として社会全体に大きな犠牲を払わせた経過とそっくりです。(2000億円の粉飾が判明したカネボウの旧経営者もまさにそうです)

 中国での反日デモが株価に影響を与えています。本質的には、日中の経済活動を揺るがすものではないと分かっていても、市場参加者の気持は暗くなります。
 かつて、日露戦争に勝利し、ロシアの極東侵略を食い止めた日本が、その後次第に中国に対してとった行動は絶対に美談にできないからです。
 日本の過去を恥じる立場からは、いっそ日露戦争で負けたほうがよかったという論議さえも出ますが、私はそういう極端な「平和主義」にはかえって危険なにおいを感じます。過去の戦争の善悪を論議する前に、我々はもっとやるべきことがあります。
 自分自身の出処進退です。自分が、例えばその属する組織のトップを本当は全然尊敬していないにもかかわらず、その前に出ると、言いたいことも言わず最敬礼するような欺瞞的な生活を送っていないかということです。もしそうだとすれば、かつて軍国主義の前にひれ伏した人々を批判する資格はありません。
 資本主義の世界が続く限り、なまじっかの「平和主義」を掲げるかどうか以前に、自分が批判精神を失っていないかどうかが大切であり、資本主義の議事堂ともいうべき株式市場ではそのことがますます問われていくと私は考えます。

 話が横道にそれましたが、日経平均1万2000円は、中期的な相場の帰趨を決するいわば203高地です。
 弱気派は、日経平均は3月に今年の高値をつけ、昨年4月が中期的な高値となったと考える見方に代表的され、3月以降、1万2000円近くに押し寄せてははね返される買い方の無駄な努力をせせら笑っています。
 強気派も、市場の大勢としては、今朝の日経に先高観の後退から信用買い残が減少に転じたと報じられているように、やや挑戦の気力を失いつつあります。
 相場の転機はおうおうにして市場の大勢意見に反して訪れます。いまは難攻不落に見える日経平均1万2000円ですが、抜けるのはわりと簡単なのではないでしょうか。
 私は、米国の半導体株の上昇転換がそのきっかけになると考えており、来週19日のインテルの決算発表前後に一つの目安を置いています。
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