真面目外務員の本音ロゴ

第210回 とうとう9100円突破<11/29>

 日経平均は昨日の300円高のあとで今日はさすがにもみ合いですが、前回述べました通り、私自身は完全に強気転換しました。
 日立、富士通、NECがそれぞれ20円以上高く、このところ少しずつ持ち高を増やしていたので、大いに気をよくしています。
 もっとも、お客様の心理はほとんど変わりません。これまでは底入れ期待が高まるたびに積極買いをしてくれた顧客が今回ばかりは今日に至ってもまだ慎重です。もっとも頼みの顧客でさえ「じゃあ、思いきって奮発するか」といってくれた日立の買い注文は、金額的にはかつての何分の一です。まして他の顧客は、またどうせ下がるよとトーンが低いこと低いこと。無理もありません。実は私からして、また強く勧めてまた損を与えたら申し訳ないという思いに支配され、腰が引けたお勧めしかしていないのです。
 この2年半は、経験したことのない下げ相場でした。特にこの半年間は、日立に象徴される主力株が激烈な下げを続け、金銭面、精神面のダメージは深刻でした。結果、多くの投資家のマインドがずたずたに引き裂かれた状態にあります。
 このマインドの回復にはまだ長い時間がかかるでしょう。それまでは、個別株があちこちで躍動感のある上昇を示し、買い人気が好循環になるような個人投資家待望の相場は望むべくもありません。
 ただし、昨日今日の電機大手の上げのように、局部的な水準訂正は、今後も思いがけないタイミングで起こる可能性が大きく、それにつれ日経平均はややぎくしゃくとしながらも少しずつ上昇していくのではないかと考えます。
 今年2月の安値は、真の大底にはなりませんでしたが、3〜4か月にわたり平均株価の堅調は持続しました。
 私はおそらく日本株は10月と11月で今度こそ大底をつけたと考えます。百歩譲って日本経済の先行きがまだまだ多難で、現在が真の底ではないとしても、少なくとも今後3か月は堅調を持続する可能性が高いと考えます。


第209回 相場観以前<11/27>

 つねならば、顧客との用談は、いまは買い場か売り場かで始まり、何をどうしようで終わります。ところが、最近、株の売り買いの話は一切せず、世間話で終わってしまうとか、用があっても、事務的なことだけということも珍しくありません。
 私自身が正直なところ、日々の株価に関心を失っています。大幅に下げたUFJや大幅に上げたソフトバンクなど特別な状況にある銘柄を別にすれば、ほとんど全部に近い株がいまは無気力な上げ下げを繰り返しているだけです。
 世の中には、いまのような状況の中でも、売ったり買ったりして利益をあげている人もいるのでしょうが、私は少々の値上がり期待で投資に踏み切ることはほとんどなく、信用でさえ50%以上の利食い目標を立てることがほとんどですから、もう長らく買いを勧めない毎日が続いています。
 ではいつになったら、この状況から脱出できるのか? 悲観的に考えれば、平均株価が上がってもちょっとずつで、いつまでたってもすっきりしない日々が続くということが考えられます。
 しかし、楽観的に考えれば、案外近々にも陽性の上げ相場が実現するかもしれません。ハイテク関連の悲惨な下げの象徴だったソフトバンクの最近の意外な大幅リバウンド(逆日歩9円)はその魁かもしれません。それに、今日の日経平均がプラスで終われば、25日移動平均を4日連続上回ることになり、今度こそ基調転換の可能性が強まります。
 悲観か、楽観か? 私はその点では、思考を停止しています。日経平均が9100円を超えるまでは、相場観を持っても仕方がないと考えています。
 大局的には、強気の相場観を貫き通すしかないととっくに割り切っています。買いか?と訊かれれば、買いですと即答します。しかし、目先的には、神経質に考えても、考えれば考えるほど混迷してきます。来年から始まる証券税制が、知れば知るほど頭がこんがらがってくるのと同じです。永田町も、霞ヶ関も、日米経済も何もかもが頭と心を迷わせます。
 だから、考えないことにしました。その代わり、日経平均が9100円を超えたら、思い切り強気に転じたいと堅く心に決めています。


第208回 底入れが見えた?<11/20>

 前場、銀行株が切り返し、日経平均136円高で終わった時点でこれを書いています。今朝のUFJの寄付値8.6万円はいろいろな意味で底入れの条件を満たしているのではないでしょうか。
 まず第一に、11月に入り12営業日のうち変わらずが1日あるだけで、11日連続して下げていることです。
 第二に、仮に公的資金注入を要請した場合、政府は減資で株主責任を問わないといっていますが、市場が怖れるようにダイエー並に2分の1減資になったとしても、公的資金注入後の「健全行」の株価は最低20万円と考えられますから、減資前の10万円以下の株価なら投資して報われる可能性が高いと考えられます。
 第三に、恐ろしいのは、長銀、日債銀のような形での債務超過認定による業務停止ですが、90年代のようにどんぶり勘定の時代で、悪質な不良債権を健全債権の中に隠しまくっていた銀行がざらにあったときと違い、債務超過の認定は簡単にできるものではありません。焦点は、不良債権の引当基準をどこに置くかであり、それがなかなか単純に数値化したり線引きしたりできるものでない以上、ある銀行が債務超過であることを証明することは、債務超過ではないことを証明するのにほぼ同じほど難しいことで、その銀行が明確な粉飾決算をしていないとすれば、私見では、神様でない限りなかなかできないのではないかと考えます。とすれば、UFJが早急にゼロになる可能性は相当に限定されており、実質100円以下の株価は下がれば下がるほど、ダウンサイドリスクが小さくなってきていると考えられ、株価の反転が鮮明化した場合、リターンへの期待が一気に高まる可能性がありましょう。
 もしUFJとみずほの株価反転が本物なら、その他の株に相当な戻り余地があるのはいうまでもありません。特に中低位株は、多くの銘柄にこのところさほど悪材料が出たわけではないのにもかかわらず、まるで悪材料続出のような勢いで下落した銘柄が目立ちます。先行きの平均株価がどうなるかはさておき、当面の株式市場に、悲観の行き過ぎに対する反動高の可能性が高まっていることは確かだと思います。


第207回 見えないPART2<11/18>

 前回「見えない」と悲鳴に近い文章を書いてから、半月以上が経ってしまいました。
 今月の相場は、まさに価格破壊の相場です。富士通の300円台はともかく、日立の403円にはびっくりです。
 価格破壊の根源が、銀行株価の急落、特にUFJの10万円割れにあることは確かです。
 UFJの発行株数は486万株ですから、10万円で時価総額は4860億円です。かつてはそれぞれが優秀資産であった三和、東海、東洋信託の株式が3行合わせて、たったの5000億円以下の値打ちに目減りしてしまったということです。
 もちろん、1株当たりの株主資本簿価51万円などまったく信用がおけず、実質は債務超過だから、株価はゼロでもいいんだ極端なことをいう人もいます。しかし、私はそうは思いません。銀行の純資産がいくらあるかは、ちょっとした見解の相違でブレが大きく、不良債権のうち実際にどのくらい取立て不能が発生するかは神様しか分からない以上、現状では議論しても仕方がないと思います。ゆえに、百歩譲って仮に債務超過と見ても、だからゼロでもいいんだという意見は乱暴にすぎます。
 UFJは、前期実績で7109億円の業務純益を稼ぎ出しています。数千億円の利益を楽々と稼ぐ事業基盤は、のれん代だけで少なくとも数兆円の価値があるはずです。
 仮に外国資本がUFJを買収しようと考えれば、UFJの資産価値は、
 簿価(3.3兆円)±含み損益−未引当の貸し倒れ見積り額+のれん代
 となるはずですが、多分その金額は、兆円の単位になると考えられます。むろん、ここでも、ダイエー、大京はおろか日本信販、丸紅など株価の低いところは全部倒産して数十兆円の貸し倒れが出るから、所詮純資産はマイナスだと極端に悲観的なことをいってしまえば、議論は成り立ちません。
 日本人が経済の先行きにまったく自信をなくし、極端な悲観論に動揺しまくっている現在は、外資にとって絶好のチャンスでしょう。
 ヘッジファンドは、貸株売りに現物売りをからませて値を下げてもうけ、その値の下がった株価を前にして巨大外資は舌なめずりして「救済」のタイミングをうかがっているはずです。
 UFJが今後どうなるかは、まさか合併はもうないでしょうから、次の3つのうちの1つです。
 1.自力で生き残る
 2.国が支配株主になる
 3.外資が支配株主になる
 当面の株式市場は、政府VSメガバンクの抗争の結末がどうなるのか、それに伴いどのくらいの退場者が出るのかをめぐって、濃霧の中を手探りで前に進まなければならないような困難な状況が続くことが必至です。
 買い方である我々に、わずかに希望があるとすれば、米国相場が予想外に堅調で世界デフレの懸念がやや薄らいでいることと、あともう一つは、株価の絶対的な価値から見て、現在の水準は多くの銘柄が割安と確信できることでしょう。
 たとえば、ほんの1例ですが、日立の400円が高いという経済状況は、私は世界が破滅に向かうものでない限り想定できません。


第206回 何も見えない<11/1>

 昨日は非常に暗タンした気持でした。政府の対策が発表され、それで悪材料出尽くしになると考えていたのですが、国内政策から比較的フリーなはずのハイテク銘柄でさえ米国のハイテク株高にもかかわらず売られ、日立などが安値更新です。非常に見方が甘かったと反省せざるをえません。
 さて今日からいよいよ11月ですが、目先はまったく視界不良です。外部環境もさることながら、市場のマインドが完璧に冷え切っており、ちょっとやそっとのことでは強い上昇には向かいそうにもありません。
 市場の大方の意見が、いまかすかな希望があるとすれば、11月も下げると月足で6カ月連続になり、そんなことは49年前にあっただけなので、11月はさすがに下げないのではないかということくらいです。

 仮に11月が結果的に月足陽線になるとしても、困ったことは、今月は信用の期日が多いということです。私の顧客でもそこそこあり、その下げ率のものすごさに驚かされます。
 ハイテクを中心に半値以下の建て玉もざらです。現物を売って、その損金を充当しようとすると、その現物も半値みたいなものですから、顧客にとっては、信用損金と現物の実現損で、2倍以上の損失が確定してしまいます。顧客の心情を考えると、非常につらい月になりそうです。

 証券はつらいけど、やりがいのある仕事だという気持は、これまでずっと持続してきました。その気持の支えになったのは顧客の存在です。多くの顧客の気持はつねに前向きで、大きな下げがあれば、そのうちいつかいい日が来るまでがんばるぞという姿勢で、つらい時期にも根底では明るさがありました。
 しかしいま、ごく一部の方を除いて、顧客の気持は暗然としています。しらけているというより、株の上げ下げにもはや一喜一憂しても仕方がないという無感動で虚無的な心境というふうに感じられます。
 結果、私自身も心の支えを失いつつあります。顧客同様、今日一日株が高かろうが安かろうがそれが何なのだ? 日本経済はどうせそう変わらないよ、期待したり悲憤したりするだけ損だよ、という投げやりな気持にはまり込みそうになっています。

 ただし、私はまだ本気で投げやりな気持ちになりきっているわけではありません。本当にそうだとしたら、顧客に申し訳なさ過ぎます。酒を飲んで愚痴ったれても、顧客に対してつねに全力投球する姿勢だけは保たなければならないと肝に銘じています。
 いま、何をすれば全力投球なのか、まったく分かりません。しかし、相場はいつ明暗いずれかの何があるか分からないという緊張感と、どのような事態も前向きに乗り越えていくんだという志だけは持ち続けていかなければならないと感じています。


第205回 割引現在価値<10/25>

 今日は先物中心に相場がしっかりしており、小康状態です。銀行に対する政府の政策が確定しない限り、多くの個別銘柄にまともな買いマインドが起こるはずもなく、目下は眺める他ありません。

 竹中案では、不良債権の引当基準として、割引現在価値を適用すると伝えられています。
 そのこと自体は、私はよいことと思います。ただし、割引現在価値は所詮紙の上での算出数字に過ぎず、現実の適用にあたって、どのような考え方をするかで、大きな違いが生じます。

 まず問題となるのが、割り引く金利をどう設定するかです。たとえば、竹中チームの委員の一人のかつてのコメントに、「将来、金利は5%くらいに戻る。だから、5%の金利負担に余裕を持って耐えられる企業でなければ生き残る資格はない」というような意味のことがありました。ここまではよいとして、問題は「だから、それ以上の利益を出していない企業は淘汰すべきだ」と硬直的に結論づけることにあります。
 日本に5%の金利が当たり前になる日はいつ来るのでしょうか。そして、そのときの経済状況はどのようなものでしょうか。景気がよくなり、明るい結果としての金利上昇でしょうか。それとも、不況の中のインフレでの暗い金利上昇でしょうか。
 いずれにしても、現在とは経済状況が根本的に異なるはずで、現在の好収益企業が好収益とは限らず、低収益企業が低収益とは限りません。
 現在の日本のような異常な低金利状態では、割り引く金利の設定には、非常な困難が伴うはずで、それを机の上で鉛筆をなめなめしながら決めることは危険です。

 次に、割り引くもとになる企業の将来収益をどう設定するかです。比較的堅く見込めるのは、証券以外の金融業や不動産賃貸業など資産関連業種の経常損益と、食品・薬品・公益などの安定業種の収益です。3年前、松下通信の5年後までの収益をこと細かく、かつ自信満々に予想して発表した外資系アナリストがいましたが、なんとIT絶調期の半年後の予想数字からして実際はまさかの減益で大はずれ、2年目には黒字と赤字があべこべになりました。
 ハイテクは極端としても、一般業種でも将来の収益は簡単に予想できません。少なくとも、過去の財務諸表をもとに電卓を弾けば出てくる(と想像ですが、竹中チームの中には考えている人がいるような気がします)ものではありません。たとえば、ダイエーに出資するにあたって、店舗を見て回った政策銀行の総裁のような努力がなければ、現在及び将来の企業の収益予想を判断することなどだれにもできないはずです。

 そもそも、株価は企業の価値をめぐって日々強弱が対立して形成されるわけですが、その過程で、投資家の一人一人が意識するかどうかは別にして、割引現在価値の概念は株価に織り込まれていると私は考えます。
 また、銀行の融資活動でも、貸し倒れリスクの程度を判断する場合に、当然のように割引現在価値の概念は働いています。
 つまり、割引現在価値の概念は、10年後の100万円と今の100万円を同じ価値だとはだれも思うはずがないという意味で、経済活動の根幹をなしているのです。そして、株の上手下手が知能指数で決まるものでないように、頭のいい人がより正しい現在価値の算出法を知っているというような性質のものでは絶対ないはずです。

 割引現在価値による不良債権の引当に反対するものではありませんが、機械的で画一的な算出方法を銀行に押し付けることにならないよう祈るばかりです。

 ついでにいえば、割引現在価値の観点から、問題企業群を見た場合、「29社リスト」とか何社リストに出てくるオリコやOMCカードには、多分、有利に働くはずです。
 信販は通常業務による経常損益が中期的に堅く見込めます。どういう基準を使っても、相当な割引価値が見込めるはずであり、多少の含み損があっても、不良債権という認定さえおかしいということになるのではないかと考えます。この点が、ゼネコンなど逆の意味で将来の収益環境が判然としており、割引現在価値では厳しい査定になるだろうという業種とは大きく違います。

 もう一つついでにいえば、いま問題になっている銀行の繰延税金資産は、5年分の予想利益の40%以内の金額であり、もし銀行の将来収益の割引現在価値を試算すれば、この数字より格段に大きな数字になると考えられます。
 一般的な銀行は、仮に現在の実質簿価が債務超過だとしても、それをはるかに上回る事業の存続価値があるのです。繰延税金資産を資産として認めず、公的資金注入を強要する竹中案は、資本主義的ではないと私は考えます。


第204回 繰延税金資産<10/23>

 日経平均は一時8500円割れ、日立が20年前の歴史的な安値500円を割り込み、気持は真っ暗です。
 中間報告見送りにはあ然としてしまいました。手術をするよ、手術をするよ、メガバンクも危ないほど痛いよと脅され、やっとその日が来たかたと思ったら、延期。手術の日が延びて喜ぶ人は少ないのではないでしょうか。延期は竹中氏の都合ではないにしても、我々の気持はぐじゃぐじゃです。

 冷静に考えれば、中間報告が見送られてよかったと私は思います。伝えられている概要のうち、繰延税金資産の限度額圧縮の方針はぜひ撤回されるべきだと考えるからです。
 全銀連の会長は、急にアメフットのルールを押し付けられるようなもの、という表現で反対意見を述べていますが、銀行に見方をせずとも明らかに理不尽です。
 我々国民の利益は、銀行が一日も早く不良債権の重荷から自由になり、生き生きとした金融活動を営めるようになることであり、銀行をわざわざ窮迫させ、破綻行や国有化銀行をたくさん作ることではありません。
 そもそも、繰延税金資産というのは、企業が存続し、かつ利益を計上しなければ1円にもならない資産ですから、企業の安全性を保証するうえではなんの足しにもなりません。しかし、銀行の場合、もし政府の強力なバックアップで存続することが確かであれば、将来の業務純益はある程度確実に見込めるのですから、いわばのれん代(営業権)同様、将来に実現する資産として計上することは不当ではないはずです。
 竹中チームの意図としては、資産計上を厳しくすることによってダメ銀行をいぶり出し、ダメ経営者を放逐しようというのでしょうが、伝えられている通り5年を1年に短縮すれば、前期決算段階でBIS基準をぎりぎり満たせるメガバンクは三菱東京だけです。しかも、その三菱東京といえども、不良債権を厳しく査定すれば、おそらく公的資金に頼らざるをえないでしょう。その他のメガバンクは、不良債権償却を進める前にすでに公的資金を必要な状況に追い込まれます。喩えていえば、生きるか死ぬかの深刻な心臓手術を受けようとする患者に、お前は脳も悪いから、この際、頭脳の手術も一緒に受けて、完璧な健康体になるか死ぬかしろと命令しているようなものです。
 それとも、竹中チームには、多くの銀行を国有化して、現在の経営者を追い出し、国や官僚出身のエリートが経営したほうが銀行経営はうまくいくと考えているのでしょうか。
 不良債権のそもそもの発生については銀行に大きな責任があります。しかし、その責めを追うべきバブル期の経営者は高額の退職慰労金をかすめとり、ハッピーリタイヤしています。むしろ、現在責めを追うべきは、10年経ってなお不良債権が毎年拡大する経済状況をつくっている政府・官僚です。
 政府・官僚に銀行経営を批判する資格はありません。まして大株主として経営に口出ししても経営にプラスになるとは到底思えません。
 国民の願いであり、利益であるのは不良債権問題の早期解決であり、銀行の選別・淘汰は副次的な問題です。処理加速を支援するため、繰延税金資産は少なくとも今後5年間は現状の基準を据え置くべきと考えます。
 繰り返しますが、銀行経営の存続について政府がバックアップする姿勢(絶対につぶさないという保証でなくても、普通の銀行のまさかの場合は公的資金で応援するよという程度の姿勢で可)が明確に存在していれば、繰延税金資産は、まぎれもなく価値のある会計的な資産です。
 月末までに、原則論にこだわらない柔軟な政策が打ち出されるのを祈るばかりです。そして、その方向が見えてこない限り、投資家に元気が出るはずがありません。


第203回 何を買うべきか<10/17>

 昨日と今日、日経平均は9000円近辺に上昇するものの、その後は伸び悩みという展開です。いったいいつになったら、日本株が気持ちよく上昇する日が来るのか、それを考えると憂鬱な気持になってしまいますが、それでも一時からみれば、はるかに明るい気分です。
 「いま、買うとすればどこかな?」とここにきてよく顧客から訊かれます。もちろん、私が「ではこの銘柄が」と勧めても、実際に買う人はほとんどいませんが、質問が出るだけでも、一時よりははるかにましです。

 ところで、もし買うとすれば、何を買えばよいのでしょうか。
 私は、訊かれたら、まずNECということにしています。
 ポピュラーであり、ハイテクだから下げ率は大きく、かつ値がさではないので下値の恐怖心が相対的に小さいからです。
 ただし、NECはあくまでとりあえずの選択であり、本来は顧客ごとにもう少し綿密な銘柄選別が必要だと思っています。
 以下は顧客ニーズごとの銘柄案です。
  1. 利回り中心型・・・・省略(表面的な配当利回りの高さで選ぶか、安全性の高さで選ぶかで、多岐に分かれます)
  2. 安定代表株型・・・・これも省略(いわゆるディフェンシブな銘柄に私は興味がありません)
  3. やや安心の代表株型・・・・宝(酒)、荏原、日立(この3銘柄でファンドを組めば、配当利回り1%以上、PBR約1倍で、ゲノム、環境、ハイテクという成長期待3分野で夢を持つことになります。ただし、夢のほうに重点を置けば、ハイテクは日立ではなく他の銘柄のほうがよいのはいうまでもありません)
  4. 主力株の割り切ったリバウンド狙い・・・・東京エレクorアドバンテスト、みずほorUFJ(日経平均の上昇を前提)
  5. 急落低位株の割り切ったリバウンド狙い・・・・オリコ(ダイエー同様、理屈からは大丈夫のはずです。ただし、みずほの屋台骨が大揺らぎしないという前提です)
  6. 信念による低位株投資・・・・合同製鉄、東京鉄鋼(これらの銘柄の投資価値に深く信じるものがあることについては以前(185回)に書きました)
  7. 選り取り見取りの小型株投資・・・・今回は省略(まさに宝庫状態と思います)


第202回 米国の底入れ<10/15>

 米国株が三連騰したわりに、東京市場は朝10時現在、日経平均190円高と伸び悩んでいます。
 気迷い感が強く漂う理由は明白です。一つは米国の底入れがいまだ確信できないこと、もう一つは、これから日本政府が打ち出す不良債権処理策について伴う不安です。
 本来、一国の政府が打ち出す経済政策には、期待感こそあれ、公共の利益を損なうのではないかという不安感などあってよいはずがありません。
 しかし、竹中大臣の意見に必ずしも反対ではない私でさえも、今回の彼の「発言」とされるコメント(ここにきてマスコミの伝え方が悪いと弁明しているようです)を聞いたときから、一国の政策がそう馬鹿げたものになるはずがないという信頼感は完全に吹っ飛びました。
 政府の不良債権処理策が明らかになるまで、国内系銘柄の多くに?がつきまといます。無借金会社でない限り、銀行との関係は重要であり、金融秩序の混乱は恐ろしいからです。ついでにいえば、無借金会社でさえも、銀行を仲介とする資金繰りはもちろん重要であり、金融秩序から無縁ではいられません。

 ものごとはネガティブな側面から見れば、どんどん不安が拡大され、とてつもなく弱気な世界にはまり込んでしまいます。
 弱気に見れば、米国株の底入れは一時的なものに決まっており、仮に米国株が目先的に上昇したとしても日本株への外人売りはますます増加すると見られます。だから、日本株に上がる要因はなく、今日のように戻ったところは絶好の売り場なのです。
 実際、今日あたりそのようにいう人が私の周りにも数多くいます。
 それに対して、私は、少なくとも米国株の底入れだけは素直に確信したいと思います。最低に見ても、7月末の底入れから8月半ばにかけての反騰局面くらいの安心感が戻るでしょうし、先週までの下げのスケールから見て、もっとロングタームでの底入れ反騰局面を期待してよいのではないかと考えます。

 業績の前途は多難ながらハイテク株は底値をつけた、かつ国内系株は政府がよほど間違わない限り底値をつけている、と私は考えます。
 おっかなびっくりながら、ハイテク株中心に買いを勧めています。


第201回 政府当局に抗して<10/11>

 昨日は日経平均の変動幅以上に壮絶な展開で、悲喜こもごもの結果となりました。
 私の顧客を含めて、投げ売りした個人投資家も数多く出ました。現物の顧客ならともかく、信用や先物関係で資金が逼迫した顧客に「大丈夫だろうか」と相談されても、私ははかばかしい返事ができませんでした。一度投げることを決めて、伝票を書いているときに訂正の電話が来て、追証の倍の金額を入れてがんばることにした顧客もいました。しかし、その後に、みずほの15万円に象徴される激烈な下げがあり、倍の金額でも足らないような状況となり、胃が痛みましたが、終わってみれば、その顧客の持ち株は軒並み前日比プラスで、一挙余裕の状態となりました。
 安値で投げた顧客には本当に申し訳ない思いですが、顧客の明暗はちょっとしたことで決まってしまっており、いずれにしてもなすすべもない自分を感じるばかりでした。

 今日は、米国株が久々に大幅高したわりに、日経平均は100円ちょっと高と鈍い動きですが、100円高以上で終われば、昨日の99円安をはね返した形になり、最低限の安心感が出てきます。もし160円高以上で終われば、昨日の安値からは400円以上離れますので、相当な底入れ感が台頭するはずです。
 鍵を握るのは、昨日に続きみずほとUFJの「破綻懸念」メガバンク2行の動きです。私はこのところ、相場の真の焦点は米国株が底入れを果たせるかどうかだと考えてきましたし、今もそう思っていますが、竹中大臣がメガバンクに「破綻懸念」がありうるという意味の発言をした日から、この2行の株価の消長が火急の相場焦点となったのは当然のことだと思います。

 竹中大臣の発言はお粗末に過ぎると私は考えます。特定の企業を名指ししたわけではないと弁明しているようですが、前日の「大会社」でも手加減せずに淘汰するという発言は、確かに抽象的であり、具体的に名指ししていないといえるものの、「メガバンク」は4つしかないのですから、きわめて具体的で、特定していることとなんら変わりがありません。
 ましてや、市場の評価は明確ですから、実質的にはほぼ2つに絞られる発言であり、それでも特定してはいないと主張するなら、その神経を疑います。
 一国の大臣が、みずほやUFJは危ないかもしれないよ、という意味の発言をすれば、その2行の株価が急落するのは当然です。問題はその2行の株価を急落させて、どのようなメリット(公益)があるかです。
 善意に解釈すれば、竹中大臣はみずほやUFJを安心して持っている株主に対して、早く売ったほうがいいよと警告を発したのかもしれません。
 それ以外は、あの発言はどう考えても善意に解釈できません。つまり、お粗末・軽率の流れか、市場蔑視・軽視の流れの中でしか解釈できません。

 お粗末・軽率の流れにおける批判は一部マスコミでも論じられているので、ここではなぜあの発言が市場蔑視(軽視)であると考えるかを簡単に述べます。

 不良債権を厳格に査定すれば、メガバンクといえども債務超過になるだろうということは、いまやだれもが認識しています。
 しかし、不良債権と健全債権の区別は、項目を決めて採点すれば機械的に決まるというようなものではありません。それは、銀行が新規に融資する際に、担保不足であってもその融資が英断である場合と、単なる無謀の場合と、一律に区別できないのと同じことです。
 もしそれが機械的に決まるものなら、バンカーは社会的に不要で、消費者金融と同様、自動機械でも用が足りることになります。
 淘汰は見えざる手で行われるからこそ資本主義の活力が保たれているのであって、不良債権か健全債権かを決めるのは、政府当局ではなく現実の経済のはずです。
 現在のような窮迫期に、メガバンクに対して政府当局が生殺与奪の力を持っていることは事実でしょうが、仮にそうだとしても、政府当局が淘汰するかどうかを決めるというような発言をすることは、社会主義でない限り厳に慎むべきはずです。
 したがって、私はあの発言は市場経済のバイタリズムをまったく軽視したものと考える次第です。

 現在の相場は、当面、政府当局の発言をアゲインストのものに位置づけたうえで、現実の株価水準がそれに抗してなお魅力的なものかどうかで展開されているのでしょう。

戻る